妖姫の自己紹介
れなは妖姫を事務所に連れ帰り、皆に紹介していた。
町で出会った変なお化けの子と称して、早速妖姫を苛立たせた。
まあ妖姫も妖姫で…。
「わらわは妖姫!この世で最も恐ろしい悪霊じゃ!お前ら、特別に我が側近として遣わそう!」
しん、と静まり返る事務所。妖姫は納得いかなそうな顔をしている…。
「…とりあえず私鬼子。よろしくね」
鬼子は優しい微笑みを見せる。彼女に続いて皆が次々に自己紹介した。
「フム、少々馴れ馴れしさが鼻につくが…まあ言いじゃろう」
いきなり来ていきなりこの上から目線は何様なのかと早速れみが苛立っている。
そんな妹とは違い、れなはやはりというか、ぼーっとした様子だった。
鬼子は膝を曲げ、妖姫と目線をあわせて言った。
「あなた、人間じゃない…わよね?悪霊ね」
後ろで火竜がギョッ、とした様子を見せる。
今までの名乗りは全て冗談かと思ったのだが、まさかの事実。
悪鬼慣れしてる火竜でも、悪霊は流石に怖い。
一応説明すると、悪鬼は悪意が集合したれっきとした生命体。それに対して悪霊、すなわち霊は肉体を失ったにも関わらず存在していられる不可思議な存在。自然と恐怖を覚えさせる存在だ。
言葉だけだと似てる両者だが、実際は全く違う。火竜が驚くのも無理はないのだ。
妖姫はまた胸を張って答えた。
「最も。わらわは最強の悪霊じゃ!じゃがそこら中にいる人間どもは無礼にも全く相手をしようとしないのじゃ!人間どもがわらわを無視するのは許されざる行為じゃ!鬼子、火竜!お前らはまともな人間じゃな!」
顔をかく鬼子。
無視してるのではなく、単に見えてないだけだろう。
まあ見えている人間に出会っても、まともに相手されない事も確実だが…。
とりあえず彼女を恐れる、恐れないの話は後として、鬼子は続けた。
「生前の事は覚えてないの?」
「そんなものは覚えてなどおらん!わらわは悪霊として今を生きる!それが全てなのじゃ!」
妖姫を除く全員が顔を見合わせる。今、物凄い矛盾発言をされたような…。
まあ、恐れられる事が彼女にとっての「生き甲斐」なのだろう…。
ただ、生前の記憶がないのはどうも引っ掛かる。
霊というのは大抵の者は生前の記憶を残している。でないと、この世に残した未練という、幽霊のただ一つの動力源が無くなってしまうからだ。
記憶がない幽霊も一応いるにはいるが、それは浮遊霊と言われるもの。妖姫は床に足をつけており、浮遊霊ではない。
鬼子が彼女の存在がよく分からずに悩んでいるなか、れなが横で「新種だ、新種だ」と騒いでる。
そこで、葵が話に加わってくる。
「まあ、この子はあまり有害な存在には見えないわ。悪霊という割にはほんの少ししか邪気がないし、その辺の人間より遥かに清らかだわ。悪戯っ子ってくらいで、一緒に活動して全然問題はなさそうよ」
「おい何じゃ緑頭!そちまでわらわを愚弄する気か!」
そう言うと、妖姫は突然葵に突進してくる!
が、アンドロイドの彼女に勢いで勝てる訳がなく、派手にぶつかってひっくり返る。
笑いが起きる。確かに、危険な存在ではなさそうだ。
それにしても幽霊なのに実体まである。一体何者なのだろうか。
「まあ、これからよろしくね妖姫!」
頭を抑えながら涙目でこちらを睨む妖姫に、鬼子は微笑んだ。