逃げろ逃げろ逃げろ!
レイナが魔法の箒で、飛び上がる。
地面の上では、白スーツのサムスが慌てて駆け出して、元きた道を引き返す。
そして、背後では林の間の暗闇から、巨大な獣が姿を現していた。
漆黒の艶やかな毛並みをした、巨大な狼。
その目は真っ赤な光を放ち、血走った眼球がギョロリと2人を睨みつけていた。
その足元には、小さな小さな――――絶命した子犬の亡骸。
我が子を殺された親犬の怒りは、歩むだけで地響きが鳴るほど。
「こんな……A級クラスの魔獣、相手にできないっ! 逃げてッ!」
箒で上昇しながら、レイナが叫ぶ。
その進行方向に―――急に、フレイム・ウルフの巨大な手が伸びてきた。
まるで、飛んでいる羽虫を叩き落とすかのように。
フレイム・ウルフの真っ黒な巨大な手が、レイナを魔法の箒ごと叩き落とした。
「ギャンッ!!」
魔術で何か対抗しようとしたのだろう。
杖を持って振り返ったレイナだったけど、素早いフレイム・ウルフの手に叩かれた。
真っ赤なローブをヒラヒラさせながら、白い細い脚をパタパタとさせ……レイナが落下する。
その華奢な体を、地面でサムスが受け止めた。
「……キャッチ!! ―――優等生さんが、危機一髪だったな!
大魔法使いって自分で言うなら、どうにかしてみろよッ! まったく」
「わ、私はまだ学生なの! 中学部! あんなレベルの高い魔獣なんて、相手したコトないわよっ!
勝てるワケ無いでしょっ!」
「……都合いい時だけ…子ども扱いしてほしいのかよ…」
呆れ顔のサムスは、思ったよりも華奢なレイナの体をお姫様抱っこしたまま。
全速力で、村道を駆けて戻っていく。
「(ヤバい、ヤバい! 追いかけてきてるぜェ!
……『バタコ』さえあれば!
『バタコ』のところにさえ着ければ、あんな魔獣なんてェ…!)」
赤いドレスの小さなお姫様を抱きかかえる、騎士のように。
サムスは凄いスピードで森を駆け抜ける。
大魔法使いで優等生のはずのレイナも、サムスの胸元をギュッと握りしめて……大人しくしていた。
「バタコ、バタコ、バタコ――――ッ!!!」
叫びながら、サムスが駆ける。
背後からは一軒の家のように大きな、黒い魔獣。
胸元に抱きかかえられている姫は、怪訝そうな表情をする。
「……ねぇ……バタコって――――――誰? ……女の子……?」
◇ ◇ ◇




