フレイム・ウルフ
サムスの拳銃から放たれた弾丸は、正確にフレイム・パピーの頭部を撃ち抜いた。
ギャヒイイィィッ……ン!!
血しぶきをあげて吹き飛ぶ魔獣。
その小さな黒い体に、さらに氷の刃が飛んできて突き刺さっていく。
「【アイシング・アロー】ッ! ――――刺されて凍って砕け散りなさいッ!」
明らかに、目の前の魔法使いの少女が放った、魔術。
細い白肌の手から放たれたのを、サムスはハッキリと目撃した。
「……おいおい、マジかよ。ホントに魔法使いなのか…?」
「アンタも、何よ…その武器。―――王都でも見たことないわよ、そんな凄いの」
「『銃』も見たことないのか?
大体、『王都』って…俺らの知ってる『王都』とは違うみてェだな。
この国の名前は何ていう? フランシスじゃねェのか?」
「フランシス……? 何それ。―――ここは『テンペルシア王国』。西ローラシア大陸の中の。……そんなことも知らないで、こんな魔獣の森にいたの? ……やっぱり、アンタ、何者?」
可愛らしい顔を、眉をしかめて。
魔法使いの少女は怪しむようにサムスを見ている。
「……とりあえず。私の名前は、大魔法使い…レイナ・ストレンジです。
生まれは『ザナルドリア王国』。一応、貴族の家系の出です。
今は『テンペルシア王国』、王立魔術学院中学部3年A組の学級副委員長をしております。
得意な魔術は……まぁ大抵のことは余裕でできる、優等生。
好きな食べ物は、ホロロ鳥の卵プリンと卵アイス。
嫌いな食べ物は、ニガニガ草の料理全部。
以後、お見知りおき下さいませ。
――――で、アンタは? お兄さん?」
丁寧に名乗ったレイナは、姿勢を整え、サラサラの金髪をなびかせながら礼をした。
そして挑発するように、身長の高いサムスの顔を指さしている。
自己紹介をしろ、ということらしい。
「……お、俺は、ベルギスト出身の…えーっと……ドートリッシュ家の運転手を、している――――サムス・マイティってェ者だ」
ハッキリと答えにくい様子の、サムスの返答。
実は悪役三人組として「ダベェ団」の一員として活動している、なんて初対面の少女に言えるはずがない。
「……ベルギスト? どこそれ。……ドートリッシュ家……? 聞いたことないわね」
「俺も、お前の言う…テンペルシアとか、ローラシアとか、ザナ…なんとかとか、聞いたことねェな。
更に言うと、ホロロ鳥って何だ? ニガニガ草なんて名前、フザけてねェか…?」
「何それ! 私がアホみたいなコト、言ってるって感じ!
逆に、そんなコト知らないアンタのほうが、頭おかしいんじゃない?」
「大体、自分のことを『優等生』なんて言う時点で……ダメだろ」
「何それ何それ! ダメじゃないわよッ! 私、ホントに、優等生だもんっ!」
「―――あー……優等生の、中学生な……。まだガキってことか。わかったわかった」
「チュウガクセイじゃなくて、中学部ッ! しかもガキって言い方ッ!
――――それに、アンタが運転手って言うなら、証拠見せなさいよ。
どこに馬車があるのよ?」
「馬車ァ?! ……そんなモン、誰が乗ってるんだよ。運転手って言ったら、自動車だろ、自動車」
「ジドウシャぁ? ――――何よ、それ。フザけた名前ッ!」
「フザけてねェわ!」
1人の青年と、1人の少女は。
お互いに顔をしかめて、牙を見せながら言い合っている。
その目の前には、先ほどのサムスの銃とレイナの魔術で倒れた、黒く小さなフレイム・パピー。
さすがに生きている様子はない。
それなのに。
その亡骸が、ふわり、と空中に浮かび上がる。
「―――ん?」
サムスが気づいて、横目に見た。
浮かび上がった亡骸は、レイナも見ている前で…す――――っと空中を流れるように移動していくと、林の間の闇へと消えていく。
その、林の闇の中に。
さきほどのパピーとか、比べ物にならない大きさの…真っ赤な赤い瞳が輝いていた。
「――――――嘘……やばっ……!」
レイナが顔を青くして、魔法の箒と杖を突然構えた。
それを見て、サムスも拳銃を向ける。
「フレイム・ウルフだわッ!!!
その子の……親よッ! 怒ってるッ! 早く――――逃げてッ!!!」
◇ ◇ ◇




