魔法使いの少女と、魔獣現る
「あ……アタシが、いつもダベェ様と直接通話してる…ほら、いつもの腕輪型通信機、あるだろ?
そいつで、ちょちょいっと… あれ?
なんだいなんだい、反応しやしないよ、これ。電池でも切れたのかい?」
コニーの右手首についている可愛らしいブレスレット。
いつもなら、任務終了の報告をしたり、逆に任務失敗のため課せられるダベェ様からのオシオキの通達に使われる、コニー専用ダベェ様直通の特別な通信機。
それが、全く反応しなくなった。
「じゃあ、俺が使ってる…『バタコ』標準装備、『ダベェ団』専用の通信回線は?」
「それも試したけど、反応が無いんだ」
「……そ、それじゃあよ。もう組織の秘密回線の無線じゃなくてもいいから、一般無線で助けを呼べねぇのか?」
「そいつも、試した。……反応がない。―――というか、どの周波数に合わせてみても、何の無線もとんでない。……誰も、いない」
「ど、どうなってンだい。アタシらは、一体どこまで飛ばされてきたって言うんだい! あぁ…神様……アンタはどんだけ、アタシたちに試練を与えるんだい……?」
まるで神に祈るように、両手を合わせて天を仰ぐ…コニー。
赤毛の美しい長い髪を揺らし、特徴的なラバースーツから身軽なワンピースに着替えたその姿は、悪役の女幹部レディ・コンスタンスの正体とはとても思えないような、普通の女史だ。
天を仰ぎ、事態の深刻さに打ちひしがれて、大袈裟なほど…もんどり打って。
日除けの派手なパラソルに寄りかかるように。
コニーは………倒れた。
「姐さん?!」
◇◇ ◇
「バタコ」の内部は、コニーの要望で快適な居住スペースも確保されている。
割と広いキャンピングカーみたいな作りで、今も簡易ベッドを出して、そこに倒れてしまったコニーを寝せている。
「……姐さん……熱、あるッスね」
ハンスが体温計で測定した熱は、37度を軽く超えている。
「とりあえず、水とか食料とかッ! 探さねぇとダメだろ。―――俺、暗くなる前にちょっと見てくるぜ」
腰に下げた拳銃を確認して、サムスは外へと出ていった。
あたりは、少し日が傾いてきている様子。
午後に差し掛かったのだろう。
とりあえず、緊急用の食料や水は「バタコ」の中に十分備えはあるけれど。
このまま数日間以上、この状態が続くとなると……やっかいだ。
おまけに、コニーことレディ・コンスタンスが体調を崩している。
「(……マジで、早く人が住んでる町とか村とか、家を探さねぇと…)」
最初に目が覚めて、「バタコ」のチェックをしている広場。
その周囲は森に囲まれていて。
他に……この森に何があるのかは、サムスにもわからない。
とりあえず、獣道のようなものはある。
そこを頼りに、森を進んでみるしかない。
できたら、人の住むところを見つけ……コニーに医師の診察を受けさせたい。
不安そうな表情をしながら、サムスは森の奥の丘を登っていった。
「――――ここは、景色が良いな…」
少しだけ先のほうまで見渡せる、丘陵に着いた。
歩いた時間は…5分ほど。
「バタコ」が停まっている広場から、それほど離れてはいない。
「……ん……? 何だ……。……誰か、いんのか?」
サムスが歩いていく方向、つまり「バタコ」とは明らかに違う方向の……木々が生い茂ってる林の間。どうやら川が流れている渓流付近で、赤い色の人工物が動くのが、サングラスごしに見えた。
「おーい!」
サムスが林の間で動くモノに向かって、声をかける。
「〇×%×……!」
何か、返事らしきものが聞こえてきた。どうやら人らしい。
「あァ? 何言ってんだか、聞こえねぇッ! おーいッ!」
「%△◇、〇〇&……ッ!!!」
「だから! 何言ってるか! 聞こえねェって!! もっと大きな声で言えッ!!」
「△〇△ッ!!! 〇?%ッ!!!」
「だ―――か―――らァッ!!! 何言ってるか聞こえネェから、こっち、来いやッ!!!」
林の間から見えていた、赤い何かは。
身に付けている服のよう。
そして、何か言っているけどよく聞き取れない大きさの声に、サムスが怒りを露に、森中に響き渡りそうな音量で怒鳴り散らした。
すると。
「うるさいッ!! うるさいうるさい!! うるさ―――――いッ!! さっきから、うるさくするなって、あれほどあれほど、何回も何回も、繰り返し繰り返し、言ってるじゃないッ! どうしてアンタは、こんな、魔獣が住んでる森で、無神経にデカい声だしまくってんのよッ!! もうすぐ夜でしょッ!! 考えなさいッ! バカッ!!」
魔法の箒に乗った、赤いローブをまとった……少女。
見た目、いかにも「魔法使い」といった格好をしている幼い少女が、現れる。
森の木々の間を低く飛び、怒鳴っているサムスの目の前まで――――全速力で箒で飛んでくると、飛び降りながら拳を握って、サムスの顔に向けて威嚇してくる。
空を飛んできた。
魔法の箒に乗っている。
着ているのは、真っ赤な魔法使い風のローブ。
年齢は、10代半ばといったところか。
身長は、当然だけどサムスよりも3回りほど、小さい。
サラサラのストレートの金髪が、チャーミングだ。
サムスよりもずっと幼く、末の妹くらいの年齢の少女だけど。
そんな登場の仕方をしたこともあり。
呆気にとられた様子で、サムスがズリ落ちたサングラスを手でなおす。
「――――お前……魔女?」
「違う。バカか。私は魔法使い。冒険者ギルド所属よ」
えっへんと胸を張るけど、その胸はまだ小さく幼さしか感じられない。
上半身は真っ赤なローブに包まれているけど、下は赤いキュロットスカートに、真白な細い素足がニョキッと伸びて、上質な皮のショートブーツを履いている。
上から下まで見ても、サムスが町で見かける流行に敏感な女の子たちとは、かけ離れた格好をしている。
「そして……空、飛んできた……?」
「当たりまえでしょ。魔法使いなんだから。―――と言っても、私みたいな偉大な大魔法使いだから、空飛ぶ箒を使いこなせるのであって…そこらの二流の魔法使いじゃあ……って……!」
そこまで言いかけて、魔法使いの少女は背後の森へと向き直った。
腰に下げていた、魔法の杖らしいステッキを構える。
「―――ムダ話をするために、アンタのところに来たんじゃないの! あんなデカい声出したから、私たち……魔獣に狙われてるんだからね! ほら! あそこ!!」
魔法の杖が指した先。
森の木々の間。日が傾いてきて、薄暗さが増している――――林の奥に。
赤い瞳の光がギラリと輝き。
やがて、その持ち主が森から姿を現した。
「……魔獣フレイム・パピー。……とっても凶暴な……魔獣。……の子犬よ」
体長は―――30cmほど。
真っ黒な毛並みが不気味な感じで、目も真っ赤。
少し気味が悪い雰囲気だ。
「なんだよ。子犬じゃねェか」
「ば、バカにすんじゃないわよッ! あれでも、立派な魔獣よッ! あのまま、ヤツが成長したら……フレイム・ウルフにまで成長するんだから! 聞いたことあるでしょっ、フレイム・ウルフッ!」
「――――聞いたことなんて、ねェな」
「も―――ッ! アンタ、どこから来たのよッ! 服装もなんだか変な感じだし、何者なのよッ! ……でもそれどころじゃないんだからッ……!」
魔法使い少女が言うのと同時に、そのフレイム・パピーが愛らしい表情を一変させた。
牙を剥き出しにし。
赤い瞳をギラギラとさせて。
眉間にしわを寄せて威嚇したかと思うと。
ブオオォッ!!
真っ赤な火の玉を口から吐き出し、サムスと魔法使い少女へと攻撃してきた。
「危ねェッ!」
咄嗟に、サムスは地面を転がって火の玉を避けた。
赤いローブの魔法使い少女も、可憐な動きで上手く逃げた。
「――――口から火を吐く犬だと?!」
「魔獣なんだから! 当たりまえでしょッ!」
火の玉を外したフレイム・パピー。
2人が避けている間にタタタッと走り、距離を縮めてきている。
走ってきた勢いのまま――――2人に襲い掛かろうと、飛び上がった。
その瞬間。
ダ――――――ンッ!!
拳銃の発砲音が、森中に響き渡った。
◇ ◇ ◇




