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第99話 スタートの合図


「"急患がいる! 道を開けてくれ! 頼む! ――どいてくれっ! 死にかけてるんだっ!"」


 苦しそうな表情で浅く呼吸を繰り返えしているリリアちゃんを抱きかかえながら、俺は焦燥で声を荒げる。


 ――しかし、狂喜乱舞する雑踏の中では絶叫も森のさざめきの一つに過ぎない。


「"大変だ! みんな、道を開けてくれ!"」

「"ぐったりしてる! 早く病院に連れていった方がいいわ!"」

「"病院はサウスビーデンまで行かないと無いの!"」


 異変に気が付いて道を作ろうとしてくれたのは近くにいる人たちだけ。

 そして、必死に協力してくれようとはしているが多勢に無勢だった。


 ほとんどの人たちは新年を祝って大声を上げ、陽気に歌い。

 カウントダウンの終わりと共に打ちあがった花火と会場のEDM音楽に夢中だった。


 カウントダウンの開始前より人はさらに集まってきていた。

 そのせいで人と人の隙間はほとんどなく、病院に向かうことができない。


「"頼む! 道を開けてくれ! 苦しんでるんだ! このままだと間に合わなくなるっ!"」


 何度哀願しても、事態を知らない人たちが盛り上がろうと時計台広場に集まって来ていて、身動きはさらに取れなくなっていく。


(ダメだ、もっと遠くの人も離れて行ってくれないと動けない! 早く、リリアちゃんを病院に連れて行かないと最悪なことに……!)


 考えろ考えろ考えろ……!


「"――……もと。やまも……と……"」


 抱きかかえているリリアちゃんが俺の耳元で弱弱しく囁く。


「"リリアちゃん、少しだけ待ってて! 絶対に病院に――"」


 そう言うと、俺の頬をリリアちゃんは左手でムギュっと掴んだ。


「"馬鹿。なんて顔……してるのよ……。あんたは……笑ってなさい……じゃないと、私……"」


「"リリアちゃん……"」


 リリアちゃんの言葉を聞いて、落ち着きを取り戻す。

 そうだ、俺がちゃんとしないとリリアちゃんが不安になる。

 また一緒に笑い合う為に。

 冷静にならないと……


 思い出せ、これまでで俺は何を学んだ?

 その中にきっと、解決する方法があるはずだ。


 俺が頼れる人、道具、得た知識……

 

 あるはずだ、ここから抜け出してリリアちゃんを病院に連れて行く方法が……


 その時、花火の破裂音を聞いて俺の頭に一つのアイデアが浮かんだ。


 良くないアイデアだ。

 怪我人が出るかもしれないし、このイベントは滅茶苦茶になるだろう。


 ――だけど、俺には腕に抱えている小さな命が助かる方が大切だった。


 俺は舐めふり構わず、カバンの中に手を突っ込んだ。

 そして、さっき中を見た時に確認していた『ソレ』を取り出す。


(リリアちゃん、手当たり次第にカバンに中にガラクタを入れてくれてありがとう! 『こんなモノ』まで!)


(そしてジョニーさん、混乱した会場の人たちの安全確保はよろしくお願いいたします……!)


 俺は引き金に指をかけると、右手を空高く上げた。


 ――パァーン!


「"道を開けろぉぉ!!"」


 そう叫ぶと、俺はリリアちゃんを抱きかかえたまま、スターターピストルを続けて空に向けて数発撃った。


 まだ終わらせない、終わらせるもんか。


 ――だってこれはスタートの合図なんだから。

スターターピストルは第51話の陸上勝負で手に入れた物です!

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