第96話 夜に二人で抜け出そう。
「"山本、起きなさい。起きないとのしかかるわよ?"」
「"う……ん?"」
12月31日、午後11時。
「それは是非ともお願いしたい」と思いつつ、俺は自分の病室でリリアちゃんに起こされた。
「"リリアちゃん? どうしたの、こんな時間に"」
明かりを付けると、お洒落な格好をしたリリアちゃんが松葉杖をついて立っていた。
「"一緒に年越しするわよ、早く準備して。サンタニアで一緒に年越しをしようって夏に約束したじゃない"」
「"えっ? でも部屋に居る方が良いって言ってなかった?"」
「"行かないとは行ってないわ。なによ、約束を破るつもりなの?"」
「"うぅん……でも"」
「"あら? 柏木とは行ったのに、私とは行ってくれないのかしら?"」
「"だって、病院から離れることになるし……一応、蓮司さんに報告した方が……"」
「"ダメよ、蓮司は過保護だから許可してくれないわ。たった2時間だけよ。年越しだけ一緒にしたら、すぐに帰れば大丈夫。見つかったら私が無理やり連れだしたって言うからあんたは大丈夫よ"」
「"確かに、年末で多忙な蓮司さんをこんな時間に起こすのも気が引けるなぁ"」
考える間もなくリリアちゃんは俺の手を掴む。
「"そうでしょ? さ、もう年越しまで時間がないわ。30秒以内に準備して!"」
「"えぇ!? ちょ、ちょっと待ってよ! えっと、財布とカバンと……"」
「"そこにある物、全部詰め込めば良いじゃない。ほら、私がカバンに入れておくからあんたは早く着替えて!"」
リリアちゃんに言われて、俺は急いで着替える。
リリアちゃんも可愛い恰好だったけれど、流石に大晦日の夜は冷えるので俺のコートを着せてあげた。
「"よし、あとは私を車いすに乗せれば準備完了ね"」
「"ほ、本当に行くの!?"」
「"いいから、早くしないとカウントダウンに間に合わないわよ!"」
こうして、俺はリリアちゃんにそそのかされて二人で病院を抜け出した。
寒いですね……地球、冷やしすぎです。