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第94話 できることを


「山本……すまない」


 病室から出ると、柏木さんは俺に深く頭を下げた。


「もとはと言えば、私がお前にリリアと関わってくれとお願いしたのが始まりだ。もし、山本が深く傷ついたならそれは私の責任だ」


 今となってはその時の柏木さんの迷っていた様子もよく理解できる。

 柏木さんは事情を伝えることも出来ず、全てを自分の責任として抱え込んで俺にお願いをしていたんだ。


 蓮司さんはそんな柏木さんに優しく声をかけた。


「リリアは誰も傷つかないように、一人で孤独に死のうとしていた。柏木君はそれを不憫に思ったんだろう? 誰も悪くない、悪いのは病気さ」


 蓮司さんの意見に全面的に同意する。


「そうですね……だから、リリアちゃんは誰とも深く関わろうとはせず。家族とも……」


「それが、あの子が考えた結論だったんだよ。山本君が嫌われていたのは、きっとその分君のことを気に入っていたからだね」


「……本当に、優しい子なんですね」


 リリアちゃんと出会ってからの事を一つ一つ思い出していく。


 初対面でロリコン呼ばわりされたこと。

 仲良くなりたくて、夜が明けるまで一緒に漫画の話をした。

 同人誌を読ませてあげる代わりに一緒にご飯を食べる契約をして……

 それからリリアちゃんは俺の部屋に入り浸るようになった。

 俺が少しでも部屋を空けていると何故か毎回ベッドはぐちゃぐちゃに荒らされて……

 いつも俺が直してから寝ることになる。

 俺が柏木さんと夏祭りデートできると浮かれている時、

 右手で持っていたナイフを落として、それからは右手で物を持たなくなった。

 美味しいお寿司を食べさせてあげたくて、練習して握れるようになった。

 そのまま一緒に料理を作ろうとして、生クリームだらけになったけど。

 みんな真っ白になったのが面白くて、人生で一番笑った日かもしれない。

 そして、一緒に苦手克服のためにバレーボールの練習を始めて……。

 消灯時間が過ぎた後に俺の部屋で一緒に沢山話した。


「……この前、リリアちゃんに日本の地図を広げて沢山説明したんですよ。退院したら、俺が日本を案内するから、だから約束だって……ゆびきりして……」


 思い出が、後悔となって俺の心を刺す。


「俺……そんなことを言ったのに、リリアちゃん……笑ってました。リリアちゃんがどんな気持ちかも知らないで……俺は……」


 俺の震える肩に蓮司さんは手を乗せた。


「流伽君、それは違う。以前のリリアは自分の死を悟っていた。いや、悟っているフリをしていた……」


 蓮司さんは少しずつ、語気が強まっていった。


「リリアは自分の未来なんて想像できなかったんだ。話せるようになりたくて日本語の勉強をしたり、苦手を克服するためにスポーツをするなんてあり得ないことなんだ」


 蓮司さんはしっかりと俺の目を見た。


「――流伽君がリリアを変えたんだよ。良い方にね」


 そして、にっこりと笑う。


「きっと、約束をした時は流伽君と一緒にいるのが楽しくて自分が死ぬことなんて忘れてしまったんだろう。それは、流伽君にしかできなかったことだ」


 蓮司さんは白衣を腕まくりして、気合を入れた。


「それに私は一度だってリリアの病気を治せないと思ったことはない。流伽君、君がリリアに希望を与えて、寿命を延ばしてくれた。後は私に任せておきなさい」


「私たち……だろ? 遠坂の方が先に倒れるかもしれないからな、そうならないように私も手伝うさ」


 柏木さんもラムネを咥えて蓮司さんの肩を叩いた。


「すみません、俺はお二人に頼ることしかできなくて……俺は何も……」


 無力を嘆いている俺に、蓮司さんは約束させた。


「流伽君、リリアはきっと沢山考えてる。それを話せる相手も君しかいない。リリアの願いにはできるだけ応えてやって欲しい、責任は全て私が持つ。リリアに楽しみを与えてくれ、それが君のできることだ!」


「はい……!」


 蓮司さんと固い握手を交わした。

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[一言] 「リリアは誰も傷つかないように、一人で孤独に死のうとしていた。柏木君はそれを不憫に思ったんだろう? 誰も悪くない、悪いのは病気さ」  蓮司さんの意見に全面的に同意する。 「そうで…
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