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第87話 ジャージを奪われました

 

 柏木さんの誤解を解いた翌日。


 ――スパァァン!


 体育館に爽快な音が響く。


 打ち出されたバレーボールは十数メートル勢いよく飛んで、床に弾んでいった。


 それを見て、リリアちゃんは感激した様子で身体を震わせる。


「"い、今の見た……!? 今の速いボール、私が打ったのよ! 信じられない! 私のクラスの子だってあんなに速いボールはきっと打てないわ!"」


 リリアちゃんは俺の服を引っ張りながら大興奮で飛び跳ねた。

 何度も諦めかけるリリアちゃんを説得し続けて、一時間ほどサーブの練習をした成果である。


「"うん、今のはトスの高さ、腕の振りと腰の回転、ボールの中心に手のひらが当たって完璧なフローターサーブだったね! 凄いよリリアちゃん!"」


 俺も全力でリリアちゃんを褒めてあげた。

 目論見通り、バレーボールはリリアちゃんでもできそうだ。

 力が無くても、腕の振り抜きとボールの芯を捕らえれば上手く反発してボールが飛んで行く。


 そして、何よりもボールをジャストで打ち込めた時の音と感触が気持ち良い。

 力強くボールが飛んでゆき、衝撃が手に実感として残るのだ。

 まさに『スポーツをしている』という手ごたえだろう。


 スポーツすることを半ば諦めていたリリアちゃんならここまで興奮するのもよく分かる。


「"見てて! 次はもっと上手に飛ばすから!"」


 そう言って、すぐにボールカゴから次のボールを取り出すリリアちゃん。

 しかし、次は手首に当たって明後日の方向に飛んでしまった。

 今のは腕に余分な力が入ってしまっていたので失敗したのだ、タイミングも合っていなかった。


「"焦りながらやると上手くいかないよ、怪我しちゃうこともあるから落ち着いて"」


「"わ、分かってるわよ! でも、一度上手くいったんだから! いいから、そこで見ててよね!"」


 あんなにスポーツ嫌いを公言していたリリアちゃんが、自分でボールを取り出して一生懸命に打ち始める。

 向上心が芽生えたのだろう。


 最初は10回に1回くらいだったのが、練習するうちに5回に1回くらいの確率でボールが上手く手に当たり、爽快な音と共に飛んでゆく。

 実際のバレーボールの試合なら、なんとかネットを超えて相手のコートに届くだろう。


 爽快な音を響かせたくて何度もバレーボールを打ち込むリリアちゃんを見守りつつ、俺は時計を見た。


「"リリアちゃん! 今日はここまで! 片づけるよー!"」


「"え~! もっとやらせてよ! 運動がこんなに楽しいなんて、自分でも信じられないんだから!"」


 何度も打ち込んではボール拾いをして激しく息切れをしているリリアちゃんだったが、その瞳に一切の疲れは見られなかった。

 初心者が始めてコツを掴んでハイになっている状態だ。


「"これ以上やると、明日は筋肉痛で動けなくなっちゃうよ! 明日も明後日も体育館は予約してあるから!"」


「"分かったわよ~。ちぇ~"」


 拗ねた様子のリリアちゃんに俺は提案した。


「"そうだ、明日は柏木さんと蓮司さんも連れてくるよ! きっとリリアちゃんが凄くて驚くよ!"」


 俺がそう言うと、リリアちゃんは笑顔になる。


「"そうね! あっ、待って! せっかくならもっと完璧にしてから見せたいわ! 特に蓮司は私に対して少し過保護だから、私の実力を見せつけたいの!"」


「"そっか、じゃあラリーが出来るようになったら呼ぼう!"」


 俺がそう言うと、リリアちゃんは眉をひそめる。


「"……バレーボールのラリーってアレよね? 腕をくっけてレシーブしたり、頭の上でトスをしたり……。私の力じゃ絶対にできないわよ?"」


「"大丈夫! リリアちゃんは今みたいにボールを上からはたくだけで良いから! 『スパイク』って言うんだけど……明日から教えるね"」


 リリアちゃんは瞳を輝かせた。


「"スパイクってアレよね! ドゴーン!って音立てて床にボールが落ちるやつ! あれが私にできるの!?"」


「"うん、今日リリアちゃんが打ったサーブのやり方で今度はボールの上を打って下に叩きつければいいんだよ"」


「"えへへ、明日が楽しみね! 何だか自信が付いてきたわ!"」


 二人で体育館のモップ掛けを終えて、俺とリリアちゃんは並んで自分たちの病室へと向う。

 秋も深まり、外の気温は低くなっていた。


 俺はジャージの上着を脱いでリリアちゃんに渡す。


「"リリアちゃん、良かったらこれ着て。身体を冷やすといけないから"」


 しかし、気になることがあってその手をひっこめた。


「"あっ、でも俺も少しは汗をかいたかもしれないし。嫌なら――」


「"べ、別にそんなの気にしないわよ!"」


 そう言うと、リリアちゃんは俺の手から上着を奪い取って羽織った。

 サイズがダボダボで、手の先っぽまでを包む。


「"……山本の匂いがするわね"」


「"気にしないって言ったのに!"」


「"えぇ、全然気にしてないわよ。くんくん……"」


「"じゃあ、嗅がないでよ!"」


 自分の体臭は自分では気が付けないモノである。

 俺のジャージの匂いを嗅ぎ続けるリリアちゃんを見て、これからは念入りに身体を洗おうと決意した。


 そして、なぜか部屋についてもジャージは返してもらえなかった。

急に寒くなりましたね……

皆様、風邪などひかないようにお気をつけください。

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