第52話 おまけ話①
今回はおまけ話になります!
皆様の応援のおかげでプロットも良い感じにできてきましたので、続きを楽しみにお待ちください!
――これは、治験のトレーニング完了の10日前のお話。
俺は走り込みをあと7周残して倒れていた。
「ダメだ……身体が疲れてもう動けません……!」
そんな俺を見て、柏木さんは椅子に腰かけたまま声援を送る。
「頑張ってくれ、山本~! 頑張ったら『ご褒美』をやるぞ~!」
「ご、『ご褒美』……!?」
俺は期待して倒れたまま顔だけを柏木さんに向ける。
「あぁ、ラムネシガレットをやる! どうだ、嬉しいだろう!」
俺は肩をガックシと落とした。
「柏木さん! そんなの今更1本や2本渡されたところでやる気なんて出ませんよ! というか、半ば強制的に毎日食べさせてくるじゃないですか!」
「う……た、確かにそうだよな。悪かった、ラムネシガレットも、よく考えたら今私が咥えているのが最後の1本だったしな。こんなのもらっても――」
「あと7周ですよね? 速攻で終わらせてきます」
俺の足は噓みたいに軽くなった。
◇◇◇
死にかけの表情で戻ってくると、柏木さんは満面の笑みで俺を迎えた。
「山本! 私は感動したぞ! まさか、ここまで頑張れるほどにラムネシガレットが好きだったとはな!」
「ぜぇ……ぜぇ……。い、1本しかないなら仕方がないですね……それをいただきま――」
「喜べ! ポケットをまさぐってみたら、なんともう一箱あったんだ! 一本と言わずに箱ごとやろう!」
「…………」
俺は音もなくその場に潰れた。
きっとこれは天罰だ。
柏木さんの咥えていたシガレットをもらいたいだなんて考えてしまった俺の下心を見透かされてしまったんだ……。
ガッカリしながら俺はその箱を受け取る。
「なんか、箱が潰れてるんですけど。しかも妙に生温かいですし……」
「そ、それはすまない。実は私のお尻のポケットに入れていてな、ずっと座りながら踏みつぶしてしまっていたんだ。嫌なら私の部屋で新品と取り替えるぞ!」
「……家宝にします」
神は俺を見捨てていなかった。