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第4話 美少女な先輩の秘密を知ってしまう


 今日もいつも通りの一日だった。


 クラスで嫌われている俺は不良やギャルに踏みつけられパシられ、罵られ、隣の席の宮下さんには授業が始まる前に毎回舌打ちをされてため息を吐かれる。


 放課後は意味なく校庭を走らされて、四つん這いで豚の真似をさせられ、「豚男のために喧嘩の特訓をしてやる!」とか言われて何発も身体を殴られるとクラスの不良たちは満足してどこかに遊びに行った。

 彼らにとって、俺の身体は良いサンドバッグらしい。


 ——そうして、少し遅れて始まった俺の放課後。


 自分の所属している文芸部ぶんげいぶに顔を出すために俺は部室の扉を開けた。


「遅れてすみませんっ!」


「あっ、山本君やっと来た……! な、何か飲む!? 私、お茶淹れるよ!」

「山本氏〜! お疲れ様でござる! さては、いくさに出ていたでござるな〜? この部室でしっかりと養生ようじょうなされよ!」


 文芸部の二人の先輩、足代結仁あじろゆに先輩と吉野松陰(よしのしょういん)先輩が俺のことを温かく迎えてくれた。


 足代あじろ先輩は二年生の女の先輩だ。

 小柄で前髪が長く、顔はほとんど覆われている。

 そんな髪型で象徴しているように、引っ込み思案な性格で、自分に自信がないのかいつもオドオドとしている。

 たまにチラリと髪の隙間から見える素顔はとても綺麗で、わざわざ隠しているのはきっと何か深い事情があるのだと思う。


 吉野よしの先輩は二年生の男の先輩だ。

 歴史好きの先輩で、話し方も何となく古風だ。

 いつも気さくに話しかけてくれて、俺に歴史のことや豆知識をよく披露してくれる面白い先輩だ。


「あっはっはっ、遅れたとて気にするな山本! この部活は自由をモットーにしているからな! 文芸とは自由な発想から生まれるのだからな! 謝罪が必要なほどのことではない!」


 最後に三年生の部長、高峰清彦(たかみねきよひこ)先輩が愛用している扇子を開いて自分を扇ぎながら、ふんぞり返って笑う。


「高峰部長、ありがとうございます! 足代先輩、紅茶いただいても良いですか?」

「うんっ! 待っててね……!」


 文芸部のメンバーは俺を入れてこの四人。

 足代さんを除くとみんな男子なんだけど、足代さんにとってもここは居心地が良いらしい。


 部活動はお茶を飲みながら本を読んだり、文芸にまつわる作品を作ったり話したりすること。

 文芸部のみなさんはとても良い人たちで、こんなに醜い俺に対しても普通に接してくれる。

 本当に、とても居心地が良い場所だ。


「だが、もう少し早く来てくれると助かるのは確かだな、足代あじろ君がずっとソワソワしていて本を読むどころじゃない様子だったぞ」


 高峰部長がからかい交じりにそう言うと、足代先輩は驚いてティーポットをひっくり返し、俺の為に淹れてくれていた紅茶をこぼしてしまった。

 足代さんは慌てて言い返す。


「ちょっ、ちょっと部長! そんなこと言わなくてもいいじゃないですか!」

足代あじろ氏、その気持ちはよ〜く分かりますぞ〜。ある日急に来なくなって、そのまま退部なんてことも良くある話ですからな〜」

「そ、そうなのっ! せっかく優しくて静かな新入生が入ってくれたのに来なくなっちゃったら私のせいかなって思っちゃうし……」

「し、心配しないでください! 俺はこの部活大好きですから! 絶対に辞めたりなんてしませんよ! それより、火傷してませんか!? 今、雑巾持ってきますね!」


 さんざん謝り倒す足代さんと一緒にこぼれた紅茶を拭く。


 その後、雑巾を洗うのと、ケトルに新しく水を入れ直すために足代さんと一緒に近くの水道まで歩いて行った。


        ◇◇◇


「うぅ〜、山本君ごめんね〜」

「気にしないでください。俺のために紅茶を淹れてくれようとしてくれたので嬉しいです!」

「山本君、優しい……! 本当にありがとう……」


 二人で雑巾を水に浸して洗っていると、屈んだ際に足代先輩のワイシャツの胸ポケットから何かが落ちた。

 気が付いていない様子だったので、水で流されてしまう前に俺が拾い上げる。


「足代さん、何か落としましたよ」

「え? ——あぁ!? ◎△$♪×¥●&%#?!」


 俺が拾い上げたのは何らかの美青年キャラのアクリルキーホルダーだった。

 それを見せると、足代先輩は声にならないような声を上げて慌てふためく。

 そして、俺の持っているキーホルダーに土下座してしまった。


「ジーク様〜! ごめんなさいぃ〜! 大事に胸ポケットに入れてたのに落としてしまうなんて〜!」


 俺は呆気に取られてその様子を見ていることしかできなかった。

 しばらく謝り倒した後、俺の様子にようやく気が付いた足代先輩は急いで俺からキーホルダーを受け取ると顔を真っ赤にする。


「ご、ごめんね困惑させちゃって……。わ、私……実はゲームのキャラクターにガチ恋してるオタクで……ひ、引いちゃった……よね?」

「えっと——」


 俺の返事を待たずに足代先輩は涙を流しながら必死に弁明を始める。


「い、いや、分かってるんだけどね! 現実にはジーク様はいないって! こんなのおかしいって! で、でも、現実の男の人は怖くて苦手だし、だから私は言い寄られないように顔も長い前髪で隠して、文芸部の人たちみたいな優しくて大人しい人とだけ一緒に居られて、他には二次元しか関わりを持てなくて——」

「大丈夫です! 引いてませんよ! 誰が何を好きになろうと別に良いことだと思います!」


 俺がそう言うと、足代さんは驚いた表情を見せた後、またポロポロと涙を流した。


「そ、そっか……山本君は引かないでくれるんだね……。本当に優しいね……うへへ」

「もちろんですよ! 誰にだって人に言いにくい趣味の一つや二つはあります。もちろん、全部秘密にしますから、安心してください!」

「そ、そうなの!? じゃあ……そ、そのさ……」


 足代先輩はモジモジしながら何やら少し期待するような目を俺に向けた。


「私、実はコスプレにも興味を持ってて……」


 そう言うと、足代先輩は顔を真っ赤にしながらスマホの画面を見せてきた。

 そこには、自室と思わしき場所で美少女キャラクターの格好をした足代先輩がいた。


「えへへ……ぜ、全然似てないんだけどね!」


 キャラクターを知らないので似ているかどうかは分からない。

 ただ、顔を出している足代先輩はとんでもなく可愛いということだけはよく分かった。


「コ、コスプレをしている時は私もそのキャラクターになり切ることができて、なんていうか……こ、こんな私でも自信が出るんだよね」

「そうなんですね! 素晴らしいことです! とても良い趣味だと思いますよ! 俺なんか全く自分に自信が持てないので……あはは……」


 そう言うと、足代さんは瞳を輝かせた。


「そ、そうだ! じゃあ山本君も私と一緒にコスプレしてみるのはどうかな!? そうすれば自信が付くかもしれないよ! 一緒にやってくれる人が欲しかったんだ!」

「……へ?」


 とんでもない事を言い出す足代さんに俺は少し気おくれしてしまった。

 130キロの巨体の俺ができるコスプレ……岩とかかな……?


「私と一緒にコスプレして! それで……いつかは一緒にコミケとかにも行こうよ!」

「えっと、そ……そうですね! いつか! いつか、機会がありましたら!」


 俺は何とかはぐらかすも、自分の趣味を受け入れてもらえて嬉しい様子の足代さんは「絶対だからね!」と念を推す。


「それと、ジーク様を激流から救ってくれてありがとう! ワイシャツの胸ポケットなら、圧迫されて落ちないと思ったんだけどなぁ……」


 足代先輩はそう言いながら、明らかに平均を超えた大きさの自分の胸に手を当てた。

 しかし、すぐに自分の失態に気がつき、慌てて俺に謝り始める。


「あっ、ご、ごめんね! 変な話しちゃって! こういうのってセクハラだよね!?」

「大丈夫です……むしろその……ありがとうございます」

「えっと……どういたしまして?」


 足代さんも、コスプレの趣味を続けていればいつかジーク様のコスプレが似合ってる素敵な人に会えるかもしれない。

 何にせよ、本当に良い趣味だと思う。


 コスプレをすれば、こんなに醜い俺でも少しは自分を愛せるのだろうか。

 怪獣とか、魔物とかなら結構上手くいくかもしれない。


(まぁ、流石にコミケとかにまで出ちゃうと晒し者にされちゃうと思うけど……)


 そんな風に思いながら、俺は少し上機嫌になった足代先輩と部室に向かって歩いて行った。

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