第35話 クスリと笑えるジョーク
体操着に着替えた俺は、柏木さんと共に運動場に到着した。
この病院にはリハビリテーションの施設とは別に運動場や体育館、プールなども併設されている。
流石はアメリカだ、財力と土地の広さが違う。
「さて、トレーニングの前にこの薬を飲んでくれ」
「はい!」
柏木さんはそう言って、青い錠剤を俺に渡した。
水分量を制限されている俺はペットボトルの水をできるだけ節約しながらグイッと薬を飲む。
「……本当に飲んでしまったのか?」
「――えぇっ!? 何か、ヤバい薬だったんですか!?」
「冗談だよ。笑えたか? アメリカンジョークだ」
俺は大きく安堵のため息を吐く。
柏木さんが真顔で言うモノだから、本当に毒薬でも渡されたのかと思った。
「残念ながら、クスリともできませんでした。というか、怖い冗談はやめてください!」
「いやなに、これからお前をしごいているうちに私はきっと嫌われるだろうからな。今のうちに嫌われるようなことをして慣れておこうと思って」
「俺の治療のためなんですから、恨んだりなんてしませんよ……」
そう呟きながら、柏木さんの瞳を見る。
柏木さんはこれまで多くの被験者の治験を協力をしてきて、その度に挫折する姿を見てきたはずだ。
俺に期待はしないと言っていた意味も分かる。
それは柏木さんなりの優しさでもあるが、もうとっくの昔に精神は疲れ果ててしまっているのだとも思う。
「今飲んだ青い薬が新薬で、運動をしている間にみるみるうちに痩せていくんですね?」
「いや、薬は2種類ある。今から青い薬を飲んで行うトレーニングは脂肪から水分を抜きやすくするための『身体作り』だ。3か月のトレーニングを終えたら、最後に赤い薬を飲んでもらって一晩特別な部屋で寝てもらう。全身を業火で焼かれるような激痛を経て、お前は病気ではない本来の姿に戻れる」
「最後、サラッと凄い事言いませんでした?」
「これは肥満とは違う。運動しながら痩せていくわけではないからな、効果を実感しにくいという意味で心が折れてみんな挫折していったよ。彼らも最後に赤い薬を飲んでそれなりに痩せて満足していたが、それでは病気は治らない。やり切らないとまた脂肪が水分を吸い始めてしまうんだ」
「最後は業火で全身を焼かれるような激痛を味わうんですよね?」
「治療後には豪華な食事も用意しよう、全身を焼かれた牛の肉を共に味わうんだ」
「なんか、似たような言葉で誤魔化そうとしてませんか? つまりステーキですよねそれ……。まぁ、確かに嬉しいですけど」
「まずは準備運動からだな。怪我をしないように入念に身体をほぐしていこう」
全く聞く耳を持たずに柏木さんはラジカセからラジオ体操の音楽を流した。