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第33話 アメリカンジョーク


 翌日の朝。


 検査場に連れてこられた俺は柏木さんが用意した丸いシールのようなモノを体中に貼りつけられた。


 このシールには電子チップが埋め込まれており、心拍数や汗の量なども測定してくれる代物らしい。

 それを着けたまま、俺は指示されたとおりに走り込み、スクワット、ダンベルなどのトレーニングをこなす。


 柏木さんは関心したように顎に手を添える。


「ふむ、お前はもともと運動をしているな。他の被験者はたいていこの時点でかなり辛そうだったが。お前はまだまだ大丈夫そうだ」


「はい、アルバイトもしてましたし。走り込みも……諸事情で毎日やっていましたので」


 まさか、日々のイジメがこんな風に役立つとは思わなかった……。


「そうか、それは大いに結構。さて、これらの情報を元に君のトレーニングメニューを確定していく。測定結果が出るのは2週間後だ」


「あっ、だから2週間で英単語を全て覚えるように言っていたんですね」


「あぁ、トレーニングが始まったら勉強どころじゃないからな。知らない言葉も一度脳に入れてしまえば後は会話していくうちに覚えていくさ」


「うへぇ、じゃあ絶対に覚えないとですね……自信ないなぁ……」


「まぁ、私は日本語で話しかけるからあまり支障はないが……どれくらい習得するかはお前に任せるよ」


       ◇◇◇


 ――そうして、2週間後。


 とある病室で俺は入れ墨だらけの怖いお兄さんたちに囲まれていた。


 その中心で、俺は今までしていた話の続きを語り出す。


「"――その看護師は大慌てで医者に言いました。『先生、大変です! 今、先生の診察を受けた患者さんが病院を出た直後に倒れて亡くなりました!』と」


「"それで、医者はなんて言ったんだ?"」


「"医者はこう言いました。『大丈夫、患者が倒れた向きを反対方向にしておきなさい。それで解決だ』とね"」


 俺の話を聞いて、病室中がドッと笑い声に包まれる。


 俺は英語とアメリカンジョークをある程度モノにしていた。


 正直、発音などはまだまだ下手くそなのだが人は見た目によらないモノで、この怖そうなお兄さんたちは俺のたどたどしい英語を根気強く聞き取って毎日話に付き合ってくれたのだ。


 笑い声が響き渡る病室、開け放たれた扉の外。

 頭を痛めたような呆れた表情で俺を見つめる柏木さんを目にして、俺はその場を切り上げる。


「"すみません、呼ばれているみたいです。今日も付き合ってくださり本当にありがとうございました"」


「"いいんだよ、兄弟(ブラザー)!"」

「"そうそう、俺たちも退屈が紛れて良かったぜ!"」

「"毎日英語が上達していくお前を見てるのが楽しくてな! 元気出たぜ!"」

「"また明日も聞かせてくれよな!"」


 差し出された拳に拳をぶつけて挨拶を返しつつ、俺は申し訳なさそうな表情を作る。


「"ええと、明日からは忙しくなるかもしれません……。治験が始まるので"」


「"なんだ、そうなのかよ。頑張れよ!"」

「"じゃあ、ほれ。俺たちの連絡先だ、何かあったら連絡をくれ"」

「"そうそう、お前はもう俺たちのファミリーだからな"」


 ファミリー……マフィア的な意味でだろうか。

 いや、アメリカならギャングか。

 どちらにせよ、こちらから連絡を取る勇気はない。


 盛大に送り出されて俺は病室の外の柏木さんのもとまで歩いて行く。


「アメリカンジョークまで覚える必要はなかったんじゃないか? しかも、病院で話す内容としては最悪だな」


「せっかく付き合ってもらっているので、せめて楽しませてあげたくて……」


「英語はなかなかサマになっていた。それはそうと、私のあげたラムネシガレットは彼らに横流ししてないだろうな?」


「そんな、違法薬物みたいな言い方しないでください。あげてませんし、変なモノも渡されてないので安心してください」


「そうか、検査結果が出たぞ。お待ちかねのトレーニングだ」


「ワーイ、タノシミダナァ」


 こうして、楽しい2週間の猶予期間を終えて俺の地獄は始まるのだった。


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