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第3話 バイト先でも見下される。その2

 彼女たちが出ていくと、藤咲さんは呆れた表情で俺を見る。


「全く、何が『私に失礼』だ。彼女たちの発言は君にこそ失礼じゃないか」

「あはは、俺はいいんですよ。いつものことですから」

「君が良くても、私が良くないっ!」


 藤咲さんは腕を組みながら頬を膨らませた。

 いつもクール美人な藤咲さんだが、俺しかいない時は気が緩むのだろうか。

 少し子供っぽい仕草を見せるのが正直、凄く可愛いと思ってしまう。


「まぁあいつらはともかく、山本。今日もありがとう。君の料理の腕は本当に良くて助かってる」

「そ、そんな! 店長には遠く及びませんよ!」

「あはは、技術はまだな。だが、君の料理には愛情がこもっている。一番大切なことだ、何か秘訣があるのか?」


 そんなことを聞かれてしまい、俺は少し恥ずかしく思いながらも白状した。


「いつも、妹に作る時の気持ちで料理しているんです。俺の料理の腕が上がったのも、妹に美味しい料理を食べさせたいからなので」

「なるほど、君の妹は幸せ者だな。そうだ、今月の君の給料にも色を付けておいたぞ。君の働きは素晴らしいからな」

「そ、そんな! 悪いですよ、俺だけなんて……お店はみんなで回しているので俺だけの力じゃありません」

「まぁ、そう言うな。家の家計も君が支えているんだろう?」

「そもそも、こんな体型のせいでどこも雇ってくれない俺を雇ってくださったのも本当に感謝しているんです! だから十分——」


 不意に、藤咲さんのスマホが鳴った。


「……はぁ」


 スマホの画面を見て、藤咲さんはゲンナリとした表情をする。


「……どうかなさったんですか?」

「あぁ、私は自分の店を持ちたくてずっと料理一筋だったからな。両親が心配して勝手に私に良い男性を紹介してくるんだが……正直興味が持てなくてな」

「あはは、それは大変ですね」

「ここに居るバイトの女の子たちもそうだが、どうしてそう余計なおせっかいを焼いてくるのだろうか」


 藤咲さんは口元に手を当てて何やら考え込み始めた。


「……なぁ、山本。私は女っ気がなくてつまらない人間だと思うか?」


 藤咲さんがそんなことを言いだしたので、俺は慌てて否定した。


「そ、そんな訳ないですよ! 店長は単身フランスで3年間もお料理を学んで、その若さでこんなに素晴らしいお店を開いてるんですから! ミシュラン1つ星は本当に凄いことですよ! 世間では天才だって言われてるじゃないですか!」


「——と言っても、この店で最近売れているのは君が考案した創作料理じゃないか」


「て、店長のご指導の賜物ですよ! それに店長は料理だけじゃなくて食材の買い付けや管理、お店のことまで全部一人でやっているじゃないですか! だから、とても尊敬しているんです!」


 俺が早口で必死に弁護すると、藤咲さんは意地悪そうに笑った。


「ふふふ、冗談だよ。私は恋愛沙汰には興味が持てなくてな、私がマトモじゃないのかと時々不安になってしまう時があるんだ。こんな性格のせいで友達すらもできないしな」


 藤咲さんの笑いは少しずつ自虐的なモノになっていった。

 いつも気丈に振舞っているけれど、本心では結構気にしているのかもしれない。


 俺は妹がいつも俺にそうしてくれるように、必死に励ます。


「大丈夫です! 藤咲さんはとても美しいですから引く手数多ですよ! それに、夢を叶えて夢中になれているってことなんですから、それってとっても素敵なことじゃないですか!」


「ふふ、ありがとう。もう十分だよ、君は優しいな。いつか私も本当に誰かを好きになることがあるのかな? 想像もできないが、私なんかじゃきっと愛想を尽かされてしまうだろうな。できれば、実家にも一度誰かを連れて行って安心させてやりたいのだが……」


 藤咲さんは少しブツブツと呟くと、俺の肩を叩いた。


「さて、君のシフトの時間はここまでだろう? 上がっていいぞ。夜は予約の客だけだからな、私一人でも十分に回せる」

「そうですか、分かりました! じゃあ、また明日のランチ時に来ますね!」

「いつも忙しい時間を任せてすまないな。さて、私も仕込みをしないと」


 そう言って、調理器具の準備をする藤咲さんの足取りが何だか重そうに見えた。

 俺は思わず声をかける。


「店長、少し働きすぎではないですか?」

「あぁ、最近雑務が立て込んでいてな。今日の営業が終わったら少し休めるから心配はするな」


 そう言ったそばから、藤咲さんはフラついてキッチンの棚に身体をぶつけた。

 棚の上に積み上げてあった調理器具がバランスを崩す。


「——危ないっ!」


 俺は必死に飛び出して、藤咲さんに覆いかぶさり上から落ちてきた鍋やフライパンを背中で受け止めた。

 俺の身体に弾かれた鍋が床に落ちてけたたましい音を上げる。


「いたた……大丈夫ですか? お怪我は?」

「君こそ大丈夫か!? け、怪我は!?」

「俺はありません、店長も無事のようですね。あはは、俺の体が大きくてよかった」


 藤咲さんはオロオロとした様子で俺の身体を案じてくれた。


「すみません急に飛びついて……怖かったですよね」

「こ、怖くはなかったぞ! ただ、ドキドキはしたが!」


 藤咲さんはそう言って顔を赤くする。

 俺は130キロの巨体だ、ドキドキしたって言ってるしやっぱり怖かったんだろう。


 俺は真面目な表情で藤咲さんに言った。


「店長、夜の営業は俺とアルバイトに任せてください。店長は休むべきです」

「しかし、明日はまた忙しいお昼時に君を呼びつけるんだ。アルバイトの君にそこまで頼るのは……」


 難色を示す藤咲さんに、俺は少しズルい手を使った。


「実は……今月は少し出費が多くてバイトを増やしてもらえると助かるんです。任せてもらえませんか?」


 絶対に譲らないという気迫のこもった俺の瞳を見て、藤咲さんはまだ顔が赤いまま観念したように目を逸らした。


「……はぁ、君も私の扱いが上手くなってきたな。分かった、君なら上手くやれるだろう、今夜は店長代理を頼む。だが何かあったらすぐに私に連絡を入れるように」

「大丈夫です! 店長は安心してお休みください!」


 こうして藤咲さんを見送ると、俺は夜の営業も何とか立派に務め上げたのだった。

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