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第25話 藤咲さんは受け入れる

 雑誌の見出しを見て、俺は狼狽うろたえる。


「こ、これって――」

「あぁ、くだらない三流ゴシップ記事だ。しかしどうやら影響力はあるらしい、すでに何件か苦情の電話が来たよ。全員、一度しか来店してない上に私に会おうとして断られたような客たちだがな」


 そういえば、明らかに料理ではなく美しすぎるオーナーシェフこと藤咲さんを目当てに来る迷惑な客も少なくない。


 その度に藤咲さんが直接追い返しているが、内心彼らは逆恨みしていたのだろう。


 今回の件を知って仕返しとばかりに迷惑をかけてくるのも想像に難くない。


「コンサルタントはもともと山本の採用には反対していたからな。態度には出さないが今回の件で鬼の首を取ったような気持ちだろう。お察しのとおり、私に山本を解雇しろと言ってきたから私は激怒したんだ」


 藤咲さんは怒りが再熱した様子で続ける。


「確かに、このお店が繁盛しだしたのはコンサルタントが正しかったからだ。しかし、その後も繁盛し続けたのは山本が必死に腕を磨いて私の料理に劣らないモノを作れるようになり、その後も創作料理でお店を盛り上げ続けたからだ。忙しい日だって何度も共に乗り越えたしな。その功労者である山本を解雇するなんて私には考えられないよ」


 正直それは、藤咲さんのおかげだ。


 藤咲さんがずっと俺の料理の練習に付き合ってくれたし、フランスで学んだ技術を惜しみなく俺に教えてくれた。

 俺の成長を自分のことのように喜んでくれた。


 だからこそ、『1年間アメリカに行ってきます』なんて言うのはとても勇気が要る。

 だって、俺が居ない間キッチンで料理が作れる人が一人減ってしまうわけだから、代わりでも居ないと藤咲さんの負担が今以上に大きくなってしまう。


 そう考えていたら藤咲さんは話を続けた。


「コンサルタントは『代わりにもっと腕が良いシェフを見繕ってやる』とまで言ってきたが、現場で山本がどれだけ周囲を助けているのかを知らないんだ。料理の腕だけじゃない、その……山本と仕事をしていると、なんて言うか……」


「――俺の代わりを? あぁ、それなら丁度良かったです」


 アメリカで1年間治療を受ける俺は藤咲さんの前半の話を聞いて、つい反射的にそう答えてしまっていた。


 それを聞いた藤咲さんは赤くしていた顔を真っ青にする。


「『丁度よかった』だと!? ど、どういうことだっ!? 山本は店を辞めるつもりだったのか!? だ、誰かに何か悪口を言われたのか!? 教えろ! 私がそいつを黙らせてやる!」


「――ち、違いますよ!」


「じゃあ、給料か!? 分かった、ボーナスを渡そう! もともと私はお金なんてほとんど使わないからな! 貯金から欲しいだけくれてやる! だ、だから辞めるのはもう少しだけ考えてくれないかっ? なっ!?」


「だ、だから、辞めません! その……凄く言い出しにくくなってしまったのですが……」


 俺は藤咲さんに治験の事を話した。


 ここまで頼りにされていたとは思わなかったので、もしかしたら大反対されてしまうかもしれない。


 ――そう思ったが、俺の話を聞いた藤咲さんは今まで見たことがないくらいの笑顔になった。


「そうか! 山本の病気の治療ができるのか! やったな! 私も凄く嬉しいぞ!」


「で、ですが、お店を一年も空けることになってしまうのは――」


「店のことは何も心配いらない。山本は向こうでの治療に専念してくれ! ちょうど、腕の良いシェフも来るらしいからな! あはは!」


 藤咲さんはそう言って笑い飛ばす。


 さっきまであれだけ不満を漏らしていたのに、俺の身体の治療のために藤咲さんは全部受け入れようとしているようだった。


 本当に申し訳ない気持ちだ、帰ったら何か埋め合わせをしたいと強く思った。


「そうだ、山本には妹がいるだろう? 一緒に連れて行くのか?」


「いえ、できるだけアメリカでかかる費用を抑えたいので日本に残ってもらおうと考えています。立て替えていただくお金なので……流石に一人暮らしはさせられませんからどうしようか考えているのですが」


「なら、私の家で預かろう!」


「えぇっ!? そ、そこまでご迷惑をおかけするわけには――!」


「寂しい独り暮らしだからな、むしろ大歓迎だ! 家もすぐ近くだからそのまま学校も通えるだろう。山本の妹はまだ会ったことがないから楽しみだな~。山本に似て大きい子かな?」


 すでに預かる気になっている藤咲さん。

 正直こんなに好条件な預け先はないだろう。


 俺はもう本当に土下座するくらいの気持ちでお願いさせていただくことにした。


 こうして、思わぬ形で彩夏の預け先とバイト先の問題も解決したのだった。

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