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第120話 手なんか繋げません!


 せっかく再会できたのに、俺とも柏木さんとも目を合わせてくれない彩夏は顔を赤らめたまま視線を上へ、下へと泳がせていた。


 そして、急に深く頭を下げる。


「ご、ごご、ごめんなさい! お手洗いに行っても良いですか? ラウンジでお水を沢山飲み過ぎてしまって!」


 どうやらモジモジしていたり、顔を赤くしていた理由はトイレに行きたかったかららしい。

 流石の彩夏も高校生にもなればそりゃ恥じらいくらいは出てくるだろう。

 柏木さんはにっこりと笑いかける。


「もちろん。私たちはここで待っているから、ごゆっくりどうぞ」


「ひゅっ!? ご、ごめんなさい! 一人で落ち着いて深呼吸したくて! 少しお待ちを!」


 そう言って、彩夏は小走りで最寄りのお手洗いに向かう。

 彩夏……確実に柏木さんの笑顔に落とされたな。


 柏木さんは普段クールな顔をしている分、不意に笑顔を見せられるとそのギャップで破壊力が何倍にも増してしまう。

 俺も多分もう100回は恋に落ちてる。


 そんな無自覚たらしな柏木さんは二人きりになると、俺に対して気を使ってくれた。


「……まぁ、1年ぶりの再会だ。お互いに多感な時期だし、距離感も分からないだろう。少しずつ慣れていけばいいさ」


 大人びてそんなことを言う柏木さん。

 でも冷静に考えると、柏木さんもまた俺と同年齢の『多感な時期』であるはずなのに、人生経験値の差が凄すぎて口を挟めなかった。


 でも、柏木さんの言う通りだ。

 それに、今までがおかしかっただけで一般的な兄妹の距離感なんてきっとこれくらいが普通だろう。


「ありがとうございます。いやーそれにしても大変でしたねぇ。飛行機がトラブルに見舞われるなんて」


 到着してから人に囲まれて話す暇もなかったので、俺はようやく先ほどの飛行機での感想を柏木さんと言い合う。


「ファーストクラスで良かったな、乗務員から事情もスムーズに聞き出して手を貸すことができた」


「あはは、せっかく命を救ってもらったのに死ぬところでしたね」


「全くだ、『安全運転で頼む』と私はあれほど言っておいたのに」


 散々スピードを上げろと煽っていた柏木さんは自分の記憶を改ざんする。


 一呼吸置くと、柏木さんは少しだけ笑った。


「でも、『死ぬのが怖い』……。今度はそう思えたのが、嬉しいな」


「柏木さん……」


「もう私の人生は空っぽじゃない。お前に出会えたから、そう思えたんだ。山本、改めてありがとう」


「そんな、お礼を言うのは俺の方ですよ。飛行機が落ちそうだって聞いた時、『きっと、柏木さんに会えたから全ての運を使っちゃったんだ』なんて納得してしまいましたし」


「あはは、お前も大概大げさだな――ところで」


 柏木さんはスタスタと歩くと、ロビーの椅子の後ろに隠れている彩夏を見つける。

 どうやら話をしている間にすでに帰ってきていたらしい。


「彩夏、どうしてそんなところに隠れてるんだ?」


「ひぇ!? わ、私のことはお気になさらず、お二人でお話を続けてください……。私は観葉植物です……」


「そうか、なら彩夏は綺麗な花だから持って帰るとしよう。いつまでもここに居るわけにもいかないからな」


「そうですね。彩夏、地元に帰ろうか」


 俺はしゃがみこんでいる彩夏に手を差し出して笑顔を作る。


「ほら、彩夏。行こう」


「て、手ぇ!? む、無理無理無理っ! じ、自分で立てるからっ!」


 彩夏は再び顔を真っ赤にして立ち上がった。


「あっ、ごめん。つい無意識に……あはは」


 1年前は俺とどこに行くにもいつも手を繋いで歩いていたので、クセで手を出してしまった。

 でも、高校生になっても手を繋いで歩くのはおかしいと彩夏も一般的な感覚を身に着けたのだろう。

 なんか、『無理』とか言われてた気もするけど……。


(彩夏とは手を繋げなくなっちゃったけど、いつかは柏木さんと手を繋ぐぞ……!)


 アホみたいな野望を胸に秘めた俺と彩夏と柏木さんは羽田空港のタクシー乗り場に向かった。


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