第110話 お見送り その3
ジョニーさんたちが職務に戻っていくと、今度は見覚えのある男性が小走りで俺のもとへとやってきた。
「"ふぅ~、間に合って良かった。大事な研究発表会を抜け出してきたかいがあるよ"」
「"大事な研究発表会は抜け出しちゃダメなんじゃないですかっ!?"」
白衣のまま、乱れた息を整えているのは蓮司さんだ。
柏木さんと一緒にいる医療関係者のみなさんも『なんでここに居るの!?』という表情で驚愕している。
「"私の分の発表は終わらせたからな。他の人のは動画で確認するさ。それに、院長に怒られるよりもリリアに怒られる方が怖い"」
「"当然よっ! せっかくの山本の出発なのに来なかったら承知しないわ!"」
リリアちゃんはそう言って腕を組み、ご両親は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げていた。
蓮司さんは俺と握手を交わす。
「"流伽君、向こうに行っても元気で"」
「"蓮司さんもちゃんと休まないとダメですよ?"」
「"あはは、善処するよ。日本に帰ったら千絵理によろしく伝えといてくれ"」
「"はいっ! 千絵理には俺が今日帰ることは伝えてあるんですか?"」
「"流伽君からは伝えてないのか?"」
「"電話でこれまでの経緯を話していたら伝え忘れちゃって……。それと蓮司さんが伝えていると思ったので……すみません"」
そう言うと、蓮司さんはイタズラを企むような悪い笑顔になった。
「"流伽君、このまま伝えずに帰るんだ。今の君の姿はまるっきりの別人だからな、君だと分かったらきっと千絵理は驚くぞ~"」
そっか、そういえば俺の姿は以前とは全く違う。
当然、日本に帰ったらみんなは俺を見ても別人だと考えるだろう。
「"……怒られたら蓮司さんのせいにしますからね?"」
「"あはは、ついでに学校での千絵理の様子をのぞき見してみてくれ。そっちの方が普段の様子が分かるだろう? あの子は強くなったが、親としては心配なんだ"」
「"そんなことしてたら、俺が周囲にストーカーみたいな目で見られますよ"」
「"大丈夫だ。『千絵理はおもしれー女だから見てる』とでも言い訳すれば良い"」
全然言い訳になってない……と思いつつも何故か蓮司さんは自信ありげだった。
「"あはは、なんですかそれ。でも、分かりました。最初は千絵理の学校での様子を見てみますね!"」
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