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第107話 色んなリベンジが待っている


「それで……柏木さんは明日出発でも大丈夫なんですか? その……薬の研究とか」


 俺が尋ねると、柏木さんは得意げな表情でポケットのピルケースから赤い錠剤を取り出した。


「お前の研究データを元に作り直した肥大症の新薬『Y-326』だ。すでに治験をクリアーして今は承認待ちだ。うまくいけばそのまま日本でも承認されるだろう」


「す、凄い! もう新薬ができたんですか!?」


「あぁ、トレーニング量は従来の十分の一。治療期間は1カ月でよくなった。今度のは麻酔も使えるから、痛みもない。もうすでに8人の肥大症患者を治療したよ、今のところ後遺症もない」


「本当に凄いです! これからは楽に治療ができるんですね!」


「お前が最後までやり遂げてくれたおかげだ。全く、私は人生で何度お前に救われるんだろうな?」


 柏木さんはそう言うと、申し訳なさそうにうつむく。


「……本当はこの新薬をお前に飲ませたかった。お前にはとても大変な思いをさせてしまったな」


「な、なに言ってるんですか! 救われたのは俺の方です! そ、それに……」


 恥ずかしい感情を我慢しながら俺は本心を語った。


「柏木さんと一緒にする努力は楽しかったです。もちろん辛かったですけど、俺はずっと……ずっと、独りぼっちでしたから」


 これまでの人生、俺は居るだけで気味悪がられてきた。

 イジメても良い存在として社会から黙認され続けてきていた。

 そんな醜い俺にも、柏木さんは嫌がらずに触って、目を見て、毎日向き合ってくれた。


「……独りぼっちか。私も似たようなモノだった、初めてお前と出会う前はな」


 俺との出会い。

 柏木さんが小学1年生の時に、渓流で俺がタバコを取り上げた時だ。

 あの時は、確か柏木さんも家族で来ていて……


「――そういえば、柏木さんのご実家も日本にあるんですよね? 帰られるんですか?」


「実家? あ~、そういえばそうだな」


 俺の質問に柏木さんは心底興味なさそうに答えた。


「私は渓流でお前と別れた後、肥大症の薬を作る為に小学2年生の時からアメリカに居る遠坂の所で世話になっている。それ以来一度も帰っていないな」


「えぇ!? ご両親から連絡とか、来ないんですか?」


「無いな。父親は自分の息子たちを立派な医者にすることしか頭にない。私の今の状態も知らないだろう」


「で、でも流石に母親は柏木さんのことを心配しているんじゃ……?」


「私は父親の浮気相手の連れ子なんだそうだ。今にして思えば、母親からは冷たい視線を受けることが多かったな。憎い存在だろうし、私には死んでいてくれた方が嬉しいんじゃないか?」


 思わず言葉を失ってしまう。

 柏木さんだけが、本当に家族の中で除け者にされていたんだ。

 俺と初めて会った時に自殺を考えていたのも、大げさな話じゃなかった。

 子供だった柏木さんは親に愛されたくて必死だったのに……。


「その……お兄さんたちはどうなんですか?」


「私は両親に見限られた子供だったからな。兄たちからもそういう扱いだ。遊んで欲しくて話しかけても無視されていた」


「そんな! 兄は何があっても妹を守らなくちゃダメなのに……」


「兄たちは私の一つずつ年上だ。父親は教育熱心だからな、長男の兄は今年どこかの有名な医大にでも入学しているだろう」


「……どうして、その気持ちを少しでも柏木さんに向けてあげられなかったんですか?」


「父親はプライドの高い人間でな。自慢の息子の事を世間に自慢するのが生きがいのような人間だった。逆に自分の不貞の象徴である私なんて見たくもなかったんだろう」


 柏木さんの話を聞いて、俺は胸の奥が痛いくらいに激怒していた。

 そして、またあの時のように俺は柏木さんに勝手なことを言ってしまう。


「柏木さん、そんな家族とはもう会わなくて良いです。少なくとも、向こうが謝るまでは」


 俺の言葉を聞いて、柏木さんは少し困ったような表情をした。


「医学界は結構狭い。私はこれから肥大症の治療法を確立したことで講演や学会に出ることも多いだろう。大学で教えることもあるだろうし、嫌でも誰かしらと顔を合わせることになるかもしれん」


「そ、そうなんですか……」


「だがまぁ、自分が見限った子どもがすでに医者になっていて新しい遺伝子治療を確立しているとは思わんだろう。柏木百合なんてよくある名前だしきっと気が付かないさ。あいつらは私のことなんて見てなかったしな」


 柏木さんはそう言って笑う。


「しかし、そうだな。挨拶くらいはしても良いかもしれん。『初めまして、貴方の娘です』ってな」


 めいっぱいの皮肉を言うと、 柏木さんは俺を見て愛らしく首を傾げた。


「その時は、お前も私の隣にいてくれるだろう?」


「もちろんです! 頼りないかもしれませんが、柏木さんは俺が守りますから!」


 柏木さんを心配させないよう、俺は真っすぐと柏木さんの目を見た。

 しかし、すぐに視線を逸らされてしまう。


「そ、そうか……まぁ、あんなのでも両親への紹介はやっぱり必要だろうからな……こ、今後の為にも……」


 柏木さんは顔を赤くすると、何かを呟きながら大きく咳ばらいをした。


「――さて、準備を済ませて一緒に日本へと帰ろう!」

痛快なリベンジが楽しみですね~

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