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第102話 どうかお元気で

次回でリリア編は終わりです!

明日も投稿します!

少しだけ長いですが、この後の学校編を楽しむ為にも読んで頂けますと嬉しいです!


 ――10分後。

 ジョニーさんたちの爆走のおかげですぐに柏木さんたちの救急車と合流することができた。

 なぜかリリアちゃんは不満げな表情で救急車のストレッチャーに載せられて柏木さんに呼吸器やバイタルなどの機器を着けられる。


「"よし! 野郎ども、最後にこの救急車を病院まで送り届けるぞ! あともう一息だ!"」


「「"うおぉ~!!"」」


 そして、ジョニーさんたちはまた前の車をどかしながら救急車を先導してくれた。


 救急車の中では俺とリリアちゃんと柏木さん、そして救急隊員があと二人乗っていた。

 リリアちゃんの状態を一通り調べ終えた柏木さんが安堵のため息を吐く。


「"蓮司の見込み通り、呼吸器官の筋肉が弱っている。お前の人口呼吸で状態も回復していたし、このまま呼吸器を着けていれば命に別状はない"」


 柏木さんの診断を聞いて、俺も全身の力が抜けたように安心した。


「"柏木さん、すみませんでした。俺がリリアちゃんを……"」


 俺が言いだすと、リリアちゃんは人工呼吸機を勝手に外してしまう。


「"何……言ってるのよ……! 私があんたを……!"」


「"分かった、分かった"」


 柏木さんはため息を吐いてリリアちゃんに人工呼吸器をつけなおした。


「"リリアが山本を夜のデートに誘いだしたんだな。もう少し詳しい話は病院で聞くさ。今は蓮司の前にたどり着くまで何とか生き延びろ"」


 柏木さんから『そういうことにしておけ』と目で語られて、俺はリリアちゃんの様子を見ながら病院までその小さな手を握っていた。


       ◇◇◇


 病院に着くと、ジョニーさんたちはバイクを停めて俺たちがリリアちゃんを病院の中に運び込むのを見送ってくれた。


 処置室で待っていた蓮司さんにリリアちゃんの容態を見てもらう。

 その隣で俺と柏木さんも一緒に診察の様子を見ていた。


「"……うん、良かった。大丈夫だ。人工呼吸器は着けていないと苦しいだろうけれど、無くても死ぬほどじゃない。みんな、よく頑張ったね"」


 蓮司さんは笑顔で俺たちを労う。


「"あの……蓮司さん……"」


 俺がリリアちゃんを病院から連れ出したことを謝ろうとすると、リリアちゃんの瞳が俺を睨んだ。

 また同じようなことが起きるだろうと思ったのだろう、柏木さんが憶測を交えながら蓮司さんに説明する。


「"どうやら、リリアが無理を言って山本をサンタニアのお祭りまで連れ出したらしい。山本がお前に連絡をしなかったのは……私の監督不行き届きだな。すまなかった"」


 そして、結局柏木さんに謝らせてしまった。

 蓮司さんは聴診器を外してリリアちゃんの頭を撫でた。


「"……筋繊維衰退症はいつどの順番でどこの筋肉に衰退が起こるかは分からない。今回のようなことはこの先10年間ずっと起こらないこともある。私だってまさか今日起こるとは思わなかった。神様じゃないんだ、予測はできない"」


 蓮司さんは俺の目を真っすぐ見て話す。


「"私はだからといって、リリアをずっとベッドに縛り付けておくことは反対だ。たとえ安全でも、生きる楽しみを奪うようなことは。とはいえ、もし今回のようなことを相談されていたら確かに私は許可しなかっただろう。だが、それはあくまで医者として。あらゆるリスクを排除するためだ"」


 リリアちゃんは人工呼吸器を外すと、ゆっくりと自分の言葉で話した。


「"……私は、もしこれで死んでも……後悔なんてなかったわ。私らしく……生きた結果だもの……"」


「"そういうことだ。『墜落する可能性があるから飛行機には乗るな』と言うようなモノでね。人生はいつだってリスクを負ったギャンブルだ。君がリリアの口車にのせられたのだって間違っていたとは私は思わない"」


 蓮司さんがそう語ると、外からパトカーのサイレン音が聞こえてきた。


 そうか、俺はサンタニアで拳銃を撃ったと思われている。

 ジョニーさんたちがぶっちぎってしまったが、サンタニアの地元警察も呼ばれていたのだろう。

 きっと俺を捕まえにここまで追いかけてきたのだ。


 蓮司さんはブラインドを指で下げながら外の様子を見る。


「"流伽君の話を聞く限りだと……拘束はされるだろうね。それも、外国人テロリスト容疑で"」


「"ふざけるなっ! 人命救助の為だろ、無罪だ無罪! 警察なんかに山本は渡さんぞ!"」


 柏木さんはそう言って俺の腕をガッシリと掴んだ。


「"気持ちは分かるが、流伽君を素直に渡さないとさらにこじれるだろう。アメリカは外国人テロリストにはかなり厳しい。身辺調査も兼ねて、少なくとも数カ月は外部との隔離拘束があるだろうね"」


「"隔離拘束って……会うこともできなくなるってことか!? なぁ頼む、遠坂。何とかしてくれ"」


 柏木さんは俺のことなのに、深く頭を下げて蓮司さんにお願いした。


「"検察官からの起訴については、私が知る限りで最高の弁護士を付ける。だが……留置は免れないだろう。外国のテロ容疑だとお金で釈放というのも難しい"」


「"そんな……"」


 柏木さんの瞳は絶望の色に染まった。


「"大丈夫ですよ柏木さん。それに俺もお祭りを滅茶苦茶にしてしまいましたし、怪我人を出してしまったかもしれません。少しくらい捕まるのが妥当だと思います"」


「"怪我人については、私たちで対応と補償をする。君たちを脱走させたのは病院の不手際でもあるしな"」


「"山本……本当に良いのか?"」


「"はい、大丈夫ですよ"」


 俺の返事を聞いて、柏木さんは名残惜しそうに腕をほどいてくれた。


「"山本……、こっちに来て……"」


 今度はリリアちゃんが俺を呼ぶ。


 ゆっくりなら話もできるようだった。

 自力での呼吸も少し安定してきている。


 リリアちゃんは俺に左手の小指をさしだした。


「"次の約束よ……。私と、また一緒に遊ぶこと……」


 苦しいはずなのに、呼吸器を外してリリアちゃんは俺に笑顔を作りながら語る。


「こんなに楽しいことを沢山私に教えて……『もっと生きたい!』って思わせたんだもの……ちゃんと責任取ってよ? 日本に行くのも楽しみにしてる……待ってるから"」


俺はリリアちゃんに左手の小指を絡めて誓いを立てた。


「"うん、約束だよ。だから、リリアちゃんも楽しみにしててね!"」


 警察の拡声器の音が外から病院の中に聞こえてきた。


「"拳銃を持った外国人テロリストが人質の女児を連れたまま逃走したと目撃情報が入った! この病院に立てこもっているのであれば、すぐに投降しなさい!"」


「"うっせー! 投降するからちょっと待ってろ! 今、あいつはトイレ行ってんだよ!"」


 ジョニーさんも拡声器で警察に応戦してくれていた。

 あまり待たせるわけにもいかない。


 蓮司さんも俺に小指を差し出す。


「"流伽君、私とも約束だ。必ずリリアを元気な姿で君に会わせる。だから、君も元気なままでいてくれ"」


「"分かりました。蓮司さんと柏木さんがいれば、リリアちゃんのことは心配ありませんね"」


 誰も心配しないよう、俺も渾身の笑みを作った。


「"――繰り返す! 病院は包囲した! 犯人は速やかに投稿しなさい! あと、ガラが悪いお前らも!"」


「"だからもう少し待ってろって! あいつは便秘なんだよ! あとここは病院だ! お前らがうるさいと患者が起きるだろーが!"」


 再びの呼び出しを受けて、俺はみなさんに背を向けた。

 ジョニーさんが粘ってくれているが、限界だろう。


「"それじゃあ、行ってきます"」


 俺は病室を出ると、そのまま外に向かう。


 病院の正面入り口では、やや離れたところからすでに大量の警察がこちらに銃口を向けていた。

 俺が銃を持っていると考えているからだろう。


 俺は丸腰で手を上げたまま出ていく。


「山本!」


 すると、後ろから誰かが走って来て――背中からギュッと俺を抱きしめた。

 その声と体温で俺はすぐに誰か気がつく。


「か、柏木さん!? 危ないですよ! 銃を向けられてるんですから!」


「山本……待ってる。十年だろうと、百年だろうと私は待ってるから」


「柏木さん……」


「"――各員……銃を下げろ"」


 隊長と思わしき人が俺と柏木さんを見てそう指示を出した。

 警官たちは全員、銃口を下に向ける。


「"はっ、頭の固い奴らだと思ったがそうでもないらしいな。粋な所があんじゃねぇか"」


 ジョニーさんは葉巻を吹かしながら笑った。


「柏木さん、俺は元気で帰って来ます。だから、柏木さんも約束してください」


 俺は柏木さんに精いっぱいの笑顔を向ける。


「俺が戻るまで、どうかお元気で」



「"――1時22分、容疑者一味を確保……"」



 手錠をかけられた俺とジョニーさんたちはそのまま留置所へと引き渡された。

明日の投稿でリリア編は終わりです!

よろしくお願いいたします!

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