第100話 兄弟(ブラザー)
『人は多いが、通路が広い。以前、ここで銃乱射事件があった時も群衆事故はなかった。とはいえ、何があるか分からないから一応チームで警備をしてるんだ! 今日は怪我人の一人も出さねぇぜ!』
さっき、駅で言っていたジョニーさんの言葉だ。
ジョニーさんを信頼して、俺は少し高い位置に移動してスターターピストルをさらに数発撃つ。
銃声と共に、大げさなまでの火薬の煙が会場のライトに照らされる。
そして、拳銃にしか見えないモノを持った俺の姿も。
ここにいる群衆全員の頭によぎるのは半年前に発生したという銃乱射事件だ。
どんな喧騒の中でも、花火の破裂音とは違う、この音だけは聞いたらみんな逃げ出す。
小学生でも銃乱射事件をたびたび引き起こすようなこの国では。
「"銃だっ! すぐにここを離れろ!"」
「"いや、そいつを取り押さえた方が良い!"」
「"――違う! 彼はあの手に抱えた女の子を救いたいだけだ!"」
「"撃つならもう周囲を撃ってる! きっと、人を散らせるためだ!"」
「"警察はもう呼んでる! さっさと離れろ!"」
「"呼ぶのは警察じゃない、救急車だ! サウスビーデンの大学病院に連絡を!"」
付近の雑踏の中で様々な意見が飛び交うが、スターターピストルは遠くの人に音を伝えて、火薬の煙を見せる道具だ。
すぐに銃だと誤解した群衆は蜘蛛の子を散らすように時計台広場を離れていく。
(よし、今なら……! ――ってあれは!)
逃げていく群衆たちの中に一人、逆にこちらに向かって来ている人がいた。
その人は拡声器を持って大声を上げる。
「"すぐに時計台広場から離れて避難しろっ! 走れない奴はどっかに隠れてろ!"」
銃声を聞いて駆けつけたのはやはりジョニーさんだった。
ジョニーさんがサウスビーデンの病院に入院していた理由は半年前に発生した銃乱射事件の犯人を取り押さえた時の名誉の負傷だと誇らしげに語っていた。
今回も、仲間たちと銃の発砲犯である俺を捕らえに来たのだろう。
――そして、ワザと目立つ位置で銃を掲げている俺と目が合った。
ジョニーさんは驚いた表情をする。
しかし、俺が抱えているリリアちゃんとスターターピストルを見てすぐに状況を理解したようだった。
ジョニーさんは大きく空気を吸い込むと拡声器で指示を飛ばした。
「"チーム、『ブレイバーズ』に告ぐ! Aチームは引き続き、会場の警備を! Bチームはバイクを時計台広場に集めてくれ!"」
まだ俺と言葉も交わせないくらいの遠い距離。
ジョニーさんの指示は素早く、そして俺が求めていることを全て理解してくれているようだった。
俺はリリアちゃんを抱いたまま、急いでジョニーさんに助けを求めに走った。
「"今、バイクですぐに病院に向かえるように集めてる"」
「"ジョニーさん、ありがとうございます!"」
「"感謝は後だ、一刻を争うかもしれないんだろ? そら、もうバイクが来たぞ! 俺の後ろに乗れ! お嬢ちゃんを落とすなよ!"」
俺が説明する必要などなかった。
言わなくても分かる、ジョニーさんとは心が通じ合っていたような気がした。
これが兄弟という関係なのかもしれない。
俺はジョニーさんに投げ渡されたヘルメットをかぶって、リリアちゃんを抱きかかえたままジョニーさんの大型バイクの後ろに乗った。
「"飛ばすぜ! 捕まってろ!"」
「"リリアちゃん! もう少しだから、頑張って!"」
俺とリリアちゃんが乗ったジョニーさんのバイクを中心に編隊を組み――
夜のストリートを爆走した。
皆様のおかげで100話まできました!
本当にありがとうございます!
引き続き、投稿していきますのでよろしくお願いいたします!