第10話 キモデブ、人を救う。その2
「ありがとう! 本当にありがとう……!」
「そんなに大切な物だったのか。見つかってよかったな」
遠坂の感謝を聞きながら俺は池から出て赤い宝石の綺麗なネックレスを渡す。
当然、俺の身体は泥やゴミ、小さな虫や死骸にまみれてびしょ濡れだった。
しかし遠坂はそんなことお構いなしに俺に抱き着いた。
そして、しきりに謝り始める。
「うぅ……ごめんなさい……本当にごめんなさい……!!」
人生で初めて女の子に抱きしめられた俺は顔を熱くしながら慌てふためいた。
「よ、汚れちまうって! 離れて! あと、感謝は嬉しいけど謝られる意味は分からんって!」
「わ、私は何もできなかった! 貴方がイジメられているのをみんなと一緒に笑いながら見ていたの! なのに——どうして手を貸してくれたの……!?」
遠坂が抱いていた気持ちが分かり、俺は納得した。
そして、今度は俺の気持ちを伝える。
「……笑ってない。遠坂は俺を見て笑ってなんかいなかったよ」
俺は気が付いていた。
イジメられている俺を見て、表情では笑って見せていたが遠坂の瞳は酷く心配していた。
——だから、遠坂だけは俺の中で特別だったんだ。
「……遠坂、もしかしてネックレスを捨てられたのって——」
「うん、体育の時間に外している時にやられちゃった。私が、『山本君に酷いことをするのはもうやめよう』って今朝みんなに言ったから……」
「なるほど、そういうことか〜。まぁ、そりゃ仲間外れにされるわな」
遠坂は形だけでもイジメているグループと一緒に笑うしかなかったんだ。
責めることなんてできない、だってそうしないとこうなっていたんだから。
それでも、勇気を出して俺へのイジメを止めるよう言ってくれていたのは内心凄く嬉しかった。
「このネックレスはお母様の形見なの。本当に……本当にありがとう!」
「どうして最初は俺に頼ろうとしなかったんだ?」
「だ、だって……私は貴方のイジメを見て見ぬフリをしてたのよ? 手を貸してもらえる資格なんてないわ……」
「イジメに加担しなかっただけでも凄いことだと思うぞ。ましてやあいつらを説得しようとするなんて。まぁ、これからはこんな無茶はせず気を付けて立ち回るんだな」
遠坂の探し物も見つかったので、再び帰路につく為に背を向けた。
これでまた、明日から遠坂とは他人同士だ。
きっとその方が良い。
「俺ならもう慣れてる。心配しなくても大丈夫だから遠坂はまたそいつらと仲良くすればいいさ。それじゃあ」
俺が行こうとすると、遠坂は背後から俺の服のすそを摑んだ。
「……そ、そのままだと風邪を引いちゃうわ」
そして、なにやら早口で説明を始めた。
「ウチはすぐ近くなの。そこでシャワーを浴びていって。貴方の服は2時間もあれば洗濯と乾燥までできると思うから」
「——え? いや、いいよ。ずぶ濡れで帰るなんてよくあることだし——」
「いいから、お願い。一緒にウチに来て」
決して俺の服の裾を離そうとしない遠坂に根負けして、俺はついていくことになった。
読んでいただき、ありがとうございます!
皆様の応援のおかげで記念すべき10話まで来ました!
早くイケメンに変身させて、主人公の無双ターンにしたいです!
引き続き、よろしくお願いします!<(_ _)>