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勇者の理由-マイナスSTART-  作者: 一ノ元健茶樓
4/4

勝利した!

 



 ブルーバード攻防戦。


「我が名は、魔王軍 紅き巫女 ハマツミガトキ!この街に勇者が居る!その首を貰い受けに来た!」


「我が名は!トゥギワー! 魔王将軍の1人にして、未知なる者!ハマツミガトキと同義である!」


 紅き衣を纏うハマツミガトキと、蒼きオーラ纏いし姿見えぬ存在トゥギワー。

 数万の魔族を従え、森を抜け連合国王統治非戦闘国ブルーバードへと、宣戦布告を仕掛けて来ていた。


「我らに従い勇者を差し出せ!ブルーバードの王よ!」


 ハマツミガトキは、荒野で叫ぶ。

 それを聞いたブルーバードの王と防衛兵達、そして勇者アールジィ率いるパーティは、対抗し雄叫びを上げ否定する。


「アールジィくんは、もう逃げて下さい。スキルが少し使えるとなっても戦いには不向きです」


 クルスは、アールジィの傍で耳打ちをする。そして。


 スキル:影写 -エイシャ- を使ってアールジィの複製を作った。


「マチス、トーニに混ぜてコレを進ませます。もう二~三人も作れるから逃げる途中に見つかっても大丈夫。必ず逃げ切れると思って下さい」


「い、いや。僕も戦うよクルス。見捨てて行く訳には…」


 そう言って剣を引き抜く手をトーニが止めた。


「今、前へ出て叫んでいるのは、アナタを逃がす為、昨日マチス達が作戦を立てたからなのよぉ。ここは逃げて勇者アールジィ」


「吾輩達は、強い!だからこその作戦だ!アールジィ殿は、逃げてくれ!」


 そう言いながら聖戦士マチスと暗黒騎士トーニは、笑っている。


「僕は、ギリギリまでアールジィ君が逃げるのを手伝います。状況を見て着いて行ってしまうかも!」


 アールジィの腰あたりに手を回し抱き着くクルスの頭を、アールジィは押していた。


「我が国ブルーバードは、魔王軍の宣告に従いはしない!後に増援も来る!引いてはどうか?!ハマツミガトキ殿!」


 それを聞いたハマツミガトキは、高笑いをして妖術を放つ。


 開戦の印だった。


「あれは吾輩がっ!パラディウスガーデン!」


 ハマツミガトキが放つ妖術 毒炎-ドクエン-は、ブルーバードを全てを飲みむ程の黒い嵐となるが、聖騎士マチスのパラディウスガーデンが、ブルーバード全体を覆う。


「マチス、大丈夫?!」


 暗黒騎士トーニは、聖戦士マチスの身体が毒に侵食されては治って行く様を見ていた。


「行きましょう!ブルーバードの皆さん!」


 トーニは、剣を抜き毒嵐を一閃し道を作る。その中をトーニと兵士、複製勇者が走って行く。


 毒嵐で負傷する者も聖戦士マチスが、代償を払い浄化していた。


「だ、大丈夫かマチス!?」


 アールジィは、驚きマチスへと話しかける。


「わ、吾輩は、大丈夫だ!早く逃げろ!」


 その時、アールジィの隣に蒼光が、薄らと浮かぶ。


「どうも勇者アールジィ。アナタの首を頂きます…」


 蒼い刃が、アールジィの首を切り落とした。

 しかしそれは分裂し目が霞む。


「僕はアールジィ君が好きなんですよ。こんな目に会っても助けるくらいに。僕が君だったら、もう勇者の首を落としていますけど」


 影写を使い勇者の複製を数体作り、動けぬマチスと勇者の前にクルスが、全体幻影 仮想思念幻影術 - ヴァ・バース・ファントム - を此方も高帯域に放っていた。


 それは魔王軍の兵やハマツミガトキにも及ぶ。敵全ての目が霞み、目の前には自分に似た姿の敵が見えている。


「フフハハ!面白い!この未知なる者トゥギワーに幻影など下らぬ!勇者よ!我と戦えぇぇぇえっ!」


 蒼き存在トゥギワーから放たれる無数の蒼き光線が、その場から退避する複製勇者とマチスを襲う。


「そうはさせない!仮想思念幻影術 戦術、シャドウナイフ オブ エンド!」


 するとマチスや勇者達の影から無数のナイフが飛び出し、トゥギワーの蒼き光線を屈折させて行く。

 しかし屈折を操るトゥギワーの光線攻撃と、クルスのナイフでの反射攻防戦が続く。


(ダメだ、このままでは影からナイフを出す事により勇者の場所がバレてしまうのに、ナイフを止めたら攻撃が当たってしまう…アールジィ君!)


(トーニ、今、どうしている。早くハマツミガトキを倒してくれ、吾輩は…動けないっ!)


 ハマツミガトキと暗黒騎士トーニの攻防も続いていた。


「おや、その程度かい?暗黒騎士トーニ!」


 幻影術を解きトーニや兵士全体を、身体からの無数に生える手で、妖術や武器を使い闘神の如く緩やかに前進して来るハマツミガトキ。

 その全ての攻撃を防御しつつ、攻撃を加え手を落とすも、再生する手に手間取る。


(一撃必殺の大技が出せれば…こ、こんな事には…)


「うふふ、私だってぇ、まだまだ本気じゃ無いのよぉ~?ハマツミガトキさん!」


 暗黒騎士トーニは、剣を握るチカラを強め必殺技を出すチャージに入る。

 その攻防は続けたままだが、一切の隙と攻撃が緩まる所は無い。


 その気配を感じ取った聖戦士マチスも同じく、共鳴精神チャージを行う。


(トーニッ…)

(マチスッ…)


 黒と白の光の柱が、戦場に高く昇る。

 2つの黒白龍が、その戦場を駆け巡り全ての味方にかかるデバフと、敵にかかるバフを取り除いた。

 全ての癒しと全ての攻撃。

 2人の合体必殺技だからこそ可能なる奇跡のスキル。


 スキル: エターナルフォース


 マチスは、エターナルフォースが発動された条件を確認し、トーニへと走る。

 ハマツミガトキとの戦闘に背を向け、敵軍より距離を取り構えに入った暗黒騎士トーニ、そこに辿り着く聖戦士マチス。


「お姉ちゃん行くよ!」

「分かったわ!マチス!」


『グラン・マーブル・ソードキル、レクイエム!!!!』


 マチスの放つ聖戦士一閃技は、全ての敵兵へと伝わる衝撃一閃剣であり、動きが一切出来ないショック状態へと持ち込んだ。

 トーニから放たれし暗黒必殺剣技は、目の前へと黒き巨大な閃光が駆け巡り、ハマツミガトキを含む敵の半数を巻き込む、巨大な一刀を叩き込む。


 姉妹の士の卓越した合体必殺技は、戦況を傾かせた。


「ググウ!勇者は何処だ!」


 その衝撃を受け攻撃を止めざる負えず、何も出来ないトゥギワーが、辺りを見渡すも勇者アールジィの姿は、複製も含め見つける事が出来なかった。

 目の前には盗賊クルスが、ナイフ1本を持って立って居るだけだった。


「トゥギワー君、お疲れ様!今回は、僕たちの勝ちだし、僕が君ならもう首を落とされてるね!」


 そう言ってクルスは、未知なる蒼き存在トゥギワーの首辺りを切りつけた。


「フフア!これで勝ったと思うなよ…勇者共…」


 青く霧散したトゥギワーとダメージを負ったハマツミガトキは、後退して行く。

 それに続き敵軍は、後を追うように軍を率いる。


 ブルーバード攻防戦は、連合国王統治非戦闘国ブルーバードと勇者パーティの勝利に終わった。


 しかし勇者アールジィの姿を見た者は、この後に誰も居ない。

 勇者は、山を駆けていた。


「すまない!皆!きっと大丈夫だ!マチスもトーニもクルスも強かった!エメラルドもライティ・ワイズも強かった!だから僕は、弱い自分を守って逃げないとダメなんだ!絶対に魔王の元へと行ってやる」


 山の中程で複製勇者達は、消えた。

 衝撃と轟音が、勇者の想像を掻き立て苦しい記憶と共に、足を前へと進ませた。


(あの時と…同じなんだ…僕は…今も…。きっと皆が生き残って居れば、また会える…)


 山道を進むと小さな小屋があり、中を覗くと生活している雰囲気はあるものの、誰もおらず少し待つ事にした。


(な、何だか…眠く…)


 勇者アールジィは、小屋の裏手の入口で眠ってしまう。

 時は、夜。月が天に輝き黒い空に虹色の雲が漂う。

 虹の雲から舞い落ちる光に照らされた銀色の鳥たちが、少しだけ囁き夜空を飛んでいた。


「あの…すみません。勇者様ですよね?」


 それを聞いた勇者は、飛び起きる。


「だ、誰だ!?」


 そこには背に羽根の生えた少女が、立っていた。髪は長く着ている服は、布1枚といった風体で、足は鹿の様であり手は人で、頭にはウサギの様な耳が着いていた。


「ま、魔族か?!」


「わ、私はぁ~ココで暮らす魔族と人間のハーフです。獣人やキメラなどと呼ばれますが、私は私であり呼称に意味は無い様に思っています。ホントは、勇者様に会う気も無かったですが、運命は、私たちを導くのですね…。申し遅れました私は25年前に、この世界に来て、ただ暮らしている勇者アールジィ様を待つ筈だった、ただの山の小屋に済む嫌われ者です…。勇者様も嫌われてはダメなので、早く次の街か魔王の城へとお急ぎ下さい」


 アールジィは、その姿と笑顔に、足を小屋から外そうとした。

 けれど少し振り向き少女に尋ねる。


「あ、あの名前は…あるの?」


 思いの他、動揺していたからか、失礼な質問の仕方をしてしまったと、、、自分の顔を手で覆った。


「ミスティック・リバー」


 目を覆う手の隙間から少女を見た。

 夜の光に照らされて綺羅と輝く少女に、少しの間、目を奪われた。

 ミスティック・リバーは、身を反転させ。


「さようなら」


 とだけ言い残し、小屋に入ってしまった。

 アールジィは、悪いと思ったが窓から少しミスティック・リバーの小屋の中を覗いた。

 ランプで明かりを付け、暖炉に火を灯す。水汲みから水を壺へと移し机に置いた。

 カゴからキノコや木の実を取り出し、料理をしようとしていた時だった。

 こちらに気付いて、また小屋から出て来る。


「勇者様は、もしかして、この後どこかに行かないのですか?急いでいるものと思いまして…」


「い、いや…」


 ミスティック・リバーは、少しだけ上目遣いで勇者を見ると口を開く。


「す、少し、中に入って、お話…しませんか?」


 ミスティック・リバーと名乗る、恐らく勇者護衛パーティの1人だと思われる少女は、今までと違った。

 何もせず、何もしない。


 ただ此処で、生きているだけの様だった。






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