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勇者の理由-マイナスSTART-  作者: 一ノ元健茶樓
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異世界に来た!

 


 人それぞれの想いと、ぶつかり合い、相手の気持ちを受け入れる事。人は人であるが故に、争いは生まれる。だがしかし、力を1つにすれば、どんな困難も乗り越えられる。

 人の歴史は繰り返される事に、その困難は大きくなって行く。しかし、その度に人は進化し、力を合わせ困難を乗り越える。それがいつまでも続くかは分からない。


 その困難を乗り越えられなくなれば、世界はその種を見放し、滅びへと導く。


 進化し続けれなくなった種は、用済みなのだ。


 世界は、飽きてしまう。

 新たな展開を、予想を超えた行動を、新たな力を。


 - ミセナケレバ、ナラナイ -


 鳴らない鐘に、価値は無い。

 いや、鐘を鳴らすチカラを出せない者に価値はないのだ。



「ここが…異世界…」


 メガネに黒髪、垢抜けない姿に不釣り合いな鮮やかな世界。

 異世界と言うに相応しく、世界は彼を受け入れていたが、彼は世界を受け入れられなかった。

 それは今も昔も、この先の未来もだった。


「少し歩こう…日本から、来たとしても困る事は分かっていたし。ゆっくりするのも良いか…」


 少し歩き見た事も無い世界。

 葉はピンクに、黄色い花や川の色は、七色に光り、空の鳥は大きい。


「風土、気候、空気は、田舎の方みたいだけど、ここが異世界で田舎とは限らない…の、かな?」


 その時、聞きなれない音が鳴り目の前にシステム設定が現れる。

 それはこの世界観とは合わず、機械的でグラフやバロメーター、ステータスがある。

 そしてレベルは、マイナス値。


 Lv.-777


 であった。


「これ…マイナス、だよな。そっか、マイナス…名前が…アールジィ?俺の名前か…」


 アールジィは、少し考えた末また歩き出す。

 異世界は、穏やかで特に何も問題が無さそうに感じた。


 次に目に留まるのは、お城と城門、それと複数の立ち上る煙に、なびく旗と青い空。


 そこに向かうと決めるのに、時間はかからず距離も遠くなかった。


 少し疲れたぐらいのうちに、辿り着く。

 その門番の様な人に話しかける。


「すみません。少しお伺いしたいのですが、ここはなんて町ですか?道に迷いまして…」


「ここはイエローファーブル。大丈夫ですか?どこから来たんですか?」


 にこやかに返答をくれる門番の様な人物は、少し心配そうになるも、再び笑顔を作る。


「あ、日本から来ました。知っていますか?」


「いえ、遠い国ですか?」


 それを聞いたアールジィは、少しはにかみながら答える。


「僕には近い国でした」


「そ、そうですか?入りますか?それとも…」


 少し迷いながらも中へと入るアールジィは、町を見て安心した。


(そうか。見た事のある感じで、これなら大丈夫かな…多分、この先の角の道に…)


 大通りを少し歩き、横の道へと曲がり人の少ない場所に行き、木箱に座る。

 すると1人の少女が、声をかけて来る。


「あなたが…勇者様?」


「そう。僕が勇者だ。レベルマイナススタートの勇者、みたいだけど…」


「そうですか。それなら良いと思います」


 少女は、綺麗な色の軽やかなスカートを翻し、その身を一回転させて笑顔を作る。その腰には、杖がある。

 魔法使いだろうとアールジィは思ったが、属性等の詳細は不明だった。


「アールジィ様ですね。確認しました。本当にレベル-777。ふふ、これで本当に魔王を倒せるでしょうか?」


 その笑顔の中にある言葉は、とても不釣り合いで、異世界というに相応しく、出で立ちも相まってアールジィは、言葉を出さなかった。


「行きましょう。その白い上の服と下の黒い服では、勇者様らしくありません、けど、逆に珍しくて勇者様らしいですね!」


「その…キミの名前は?」


 アールジィは、少し呆気に取られながら、その少女の名前を聞く。


「私の名前は、エメラルド。どうぞ宜しくお願いします。勇者様。私は魔法使いで、攻撃と防御、回復を行えます。勇者様の邪魔にならない様に、しっかりと魔王の元までお連れします」


「あ、ありがとう…。その勇者様でなく、アールジィと、呼んでくれる?」


「分かりました!アールジィ様!」


 そう言って、また1周クルリとまわる。

 その姿は、少しだけ差し込む町の光に、不思議な布が反射して、キラキラとしていた。

 少し2人で歩きイエローファーブルの観光を終えた2人は、町を出て野営へと入る。


「時間が無いと言っていたけど、あとどれ位なの?」


「時間は、1週間。それまでに魔王の元まで着かないと、戦争が起きます。それでは、また沢山の人が死んでしまう。だから私とアナタは、この世界に召喚されました、と。伝えろと言って居ました。あの人が」


 と指さす先に、1人のローブを着た銀髪の長髪男が、木の影に潜んで居た。

 全く気付かなかったアールジィは、武器屋で買って貰った剣と盾を手に取ると、立ち上がる。

 その時に着ている鎧が、少し金具の音を出す。


「あ、あのぉ~?!ワ、ワタクシはぁ~?!髪が長くて頭の上で結ぼうと思っていたのですが、やっぱりぃそのままで勇者様に会いに来ました!」


 その涼やかな顔を崩してニッコリ笑い、木から顔だけを出していて不気味でしか無かった。

 ローブのフードから長く垂れた髪を見て、確かに結んだ方が良いと思うもののアールジィは、肩から力を抜いた。


「ライティ・ワイズさん!こんばんは!魔王の城前で待ち合わせの筈が、来てくれたんですね?!嬉しいです!」


 ライティ・ワイズが、隠れている木まで走って勇者の前まで引っ張って来る。

 アールジィよりも少し背は高く、華奢でとても戦闘には向きそうも無い風貌と性格だと思っていた。


「ワタクシはぁ~、召喚されてまだ3日ですがぁ~。なぜ、こんなにぃ~離れた場所なのかと不思議に思って居ましたがぁ~、勇者様がぁ~近くに居たからなのですねぇ~。行かなくて良かった魔王の城に」


 そう言いながら近寄って来るライティ・ワイズを、少しだけ気持ち悪く思いながらアールジィは、握手をさせられていた。

 エメラルドの両手と、2人の手。


 パーティ結成である。


 ここから3人の魔王討伐が始まる。

 その道は長いが、時間は短く、その戦記をここに書き残さずにはいられなかった。



 勇者冒険譚を。



 その日3人は、自己紹介を兼ねた作戦会議を始める。


「そのお風呂が、まだなのですが入ります?私、水と火が出せるので、あと岩石です。岩風呂ですが…」


「それじゃぁ~、頼みましょうかぁ~?」


「僕も、少し汗をかいたから入ろうかな…それと、これからどうするかも話したいけど…」


 エメラルドが出した風呂は、歪な岩が1つの塊になり、下からは火で熱せられるも岩は、熱くなり過ぎず魔法陣からは水が絶え間なく注がれるも適温の湯になるという快適な岩風呂であった。

 そこに3人は、背を向けて入っても両手両足を伸ばせる広さで、その夜を過ごす。


「これはぁ~ビバノン♪」


「確かに気持ち良いけど…一緒に入っても大丈夫なの?エメラルド…」


「え?!あ、はぁ。コッチを見ないと言うので入りましたぁ~気持ち良いですよね?」


「3日ぶりのお風呂ですねぇ~♪」


 2人は少し凍りつく。

 エメラルドは、何かの魔法を放っていた。

 少し湯の流れが、変わった様な気がした。


「あぁ~そうだった。魔王の居場所はぁ~、ここから歩いて3日ぐらいなのでぇ~」


「そうなんだ。お湯少し熱くなった?」


「魔王は、アールジィ様が来る事を知っていますか?」


「それはぁ~、あのぉ女神様がぁ~言っていた通りぃ~。戦争を止めるのが役目でありぃ~、魔王を倒せとは言っていなかった」


「え?じゃ、じゃあ僕は、勇者として魔王を倒す為に来た訳じゃないって事?」


「それは分かりませんが、あなたが勇者様で、私たちはパーティであり、魔王が居て、戦争が起きそうな状況で、今3人でお風呂に入っているという事で、この先は、分かりませんが頑張りましょう!」


 そう言いながら勢いよく立ち上がってしまったエメラルドの水しぶきが、2人の背中に当たる。


「う、うん。頑張るよ…僕も…」


「あ、そうだぁ~。ワタクシはぁ~戦闘に不参加なのでぇ~、道案内と先に来たというメリットを活かしたぁ~異世界のぉ~説明をします」


「アールジィ様は、何をしますか?」


「え?あ…僕は…何が出来るんだろう?分かる?」


 2人は、無言になり作戦会議は、幕を閉じた。

 風呂を上がった3人は、暖かくし夜を明かす。

 朝ごはんを食べた3人は、歩き森を抜けた。


 アールジィの目は、少しだけ輝きが戻っていた。

 今少しだけ、このままの時があればと思って居る。

 その心の変化を、誰もこの時には感じる事が出来なかった。

 2人も同じ気持ちでいると、誰も知らない様に。


 この魔物の群れの中を、必死に駆け抜け、2人を置いて逃げなくてはならなくなった勇者の物語は、始まったばかりである。


「僕はっ!勇者だっ!!」





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