13. 初恋
※ジェラール視点
ああ……思わず馬を走らせてしまった。本当に孤児院へ向かうのか?私は「アニエスが見たい」という衝動を抑えきれないのか?
いや、自分の行動は別の理由があるはず。そんな個人的な話ではない。ただ、孤児を喜ばせたいと考えてるアニエスを応援したいだけだ。領主として慈善事業を推奨してるに過ぎない。
そう、ブリスが孤児院へ行ってると報告があったのだ。冷酷な監視官が居ては彼女もやり難いだろう。まさか罪人とはバラさないだろうが、念のため彼を威圧しなければならない。私が見てるぞって、余計なこと言うなって。
それがこの行動の理由だ。私の存在を知らしめたい。そのために離れていても分かる様、わざわざ大礼服を着てるんだ。
ヒヒーン!と馬が大きくいななく。ビソンの配下を見つけ、急停止した。彼らの先導で孤児院の裏手へ回る。
「殿下、あちらの窓から監視官が見えます」
「……うむ」
窓を見ると、椅子にふんぞり返って何かを食べてるブリスが居た。
「行儀が悪いな」
奴はいつも態度がでかい。まあそれは置いといて。
「おいっ、私に気づけ!気づくのだ!」
馬を軽く左右に振って「ブルル」と鳴き声を発しさせる。「ん?」と言わんばかりに彼は窓を見た。
「気づいたか、ブリス。私だ、私はここにいるぞ。妙な真似はするなよ」
すると、視界に女性が入ってきた。平民の装いながら、どこか気品を感じる女性だ。ふあふあのロングヘアにグリーンの瞳……。
あっ、あれはもしや!?
横顔だけど間違いないっ、彼女だ!アニエスだ!
「う、美しい……。何て美しいんだ」
思わず見惚れてしまった。正面を見たい。こっちを向いてくれと願う。だが、それだと私の存在に気づかれる……。と、ココロが葛藤する。
──その時、不意に彼女が窓を見た。
「あ…………」
目と目が合った。い、いかん。マズい。
慌てて手綱を引いてクルッと反転する。気持ちが動揺していた。ドキドキと心臓の音が鳴り止まない。
目的は果たした。ブリスへの威圧、さらに子供たちが美味しそうに食べてる姿も確認した。これ以上、ここに居る理由はない。
「殿下?」
「もうよい。帰る」
私は颯爽と馬を走らせた。
アニエス……十年ぶりだが、君はとてつもなく美しく成長した様だな。一目見られて嬉しかった。だが、もう会うことはないと思う。
彼女は王太子である我が兄の元婚約者で罪人だ。罪人と結ばれることはあり得ない。あり得ない夢を見ても辛くなる。アニエスと会えば叶わない夢を追いかけてしまうだろう。それは不幸になるだけだ。
さよなら。我が初恋の君よ……。




