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山田なでしこと竜の船  作者: さざなみ
9/13

誘拐犯の正体

 葵が煙騒ぎに乗じて連れ去られた一時間後。彼女の身は街の外れにある、寂れた一画まで運ばれていた。

 誘拐犯の二人組は葵を抱えたまま荒れ家のような建物に入り、乱暴に床へ降ろした。

(いった……!!)

 思わず叫んだが、口が縄でふさがれているので、唸り声にしかならない。

(ど、どこなのここ……?)

 しきりに周囲を見回す葵。ボロボロの板張りの床に、三つの人影があった。

 二人は葵を連れ去った実行犯。最後の一人は目深にローブを被った背の高い人物。

 不意に、葵の頭に声が響いた。

『久しぶりだね。異世界のお嬢さん』

(ひ……!?)

 葵はそれだけで気づいた。忘れられるはずもない。この優しさに偽装した害意の塊のような感触。

 人影がおもむろにローブを脱ぐ。毛むくじゃらの顔に、鋭く並ぶ牙の列。人間大に縮んでいるが間違いない。先日葵を襲った謀狼とかいう邪霊だ。

(な、なんで……!? なでしこさんたちが倒したはずなのに……!!)

 恐怖で身体を硬直させる葵。内心の戸惑いを察したのか、謀狼が声をつくった。

『あの砲撃が命中する寸前、意識を頭に移して切り離した後、遠くへ思いっきり投げたんだよ。直撃を避けた頭は爆風に乗って遥か彼方へ……。力の大半は失ったけれど、なんとか生きのびたってわけさ』

 ちなみに、と謀狼は視線を二人の男たちの方へ。

『彼らは僕の協力してくれる人間さ。僕の手助けをしてもらう代わりに、彼らにとって邪魔な人間を僕が喰らって始末する契約をしている。おかげで君のことを早く見つけることができた』

「なあ旦那」

 謀狼の言った協力者。その一人が口を開いた。

「アンタの指定した人間を連れてきたけどよ。こいつがそんなに珍しい獲物なのかよ? 見た限り普通の小娘にしか……」

『今はそうだろうね』

 邪霊が葵に近づき、かがんで顔を覗き込む。

『おそらく髪の色を変えているんだろう。これさえとってやれば……っ!!』

 突如、謀狼の発する気配が変わった。困惑するように頭を振る

『これは……くそっ!! お前たちなんてことを……!!』

「な、なんです……?」

『左の耳飾りから波動が放射されている……。これではすぐにでも居場所を——』

「もう遅いわぁ!!」

 直後、廃屋の入り口がバラバラにはじけ飛んだ。開け放たれた入り口にいたのは、左足を前に伸ばしたリリアと、杖を向けたなでしこだ。

「いけ……っ!!」

 間髪入れず、杖の先から三つの光弾が飛ぶ。光の塊は敵の顔面や胸部に直撃。爆発しない。強烈なパンチのように標的を吹っ飛ばした。

「すまんの。怖い思いをさせて」

 リリアが葵に近寄り、素手で縄を引き千切る。横抱きに抱えて、杖を構え続けるなでしこのそばを通って外へ。

「よし、ここはとりあえず逃げるよ!!」

 なでしこが葵の救出を確認して退避を促した。その時、

(クソが……っ!!)

 唾を吐くように、謀狼の口から尖ったものが発射された。

「!!」

 敵が狙ったのはなでしこ。彼女は回避しようとしたが、攻撃は左の二の腕を掠めた。

「なでしこ!」

 リリアが叫ぶ。なでしこは険しい顔をしながらも杖を構え直す。

「大丈夫……! 葵ちゃん、目をつむって!!」

「は……はい!!」

 葵が言われた通りに瞼を閉じると、その向こうで強い光が一瞬輝いた。男たちの苦悶の叫びが聞こえる。身体が大きく揺れる。

 少しして目を開けると、そこは人通りが多い広場の隅だった。

「もう撒けたぞ。安心せい」

 リリアに地面へ降ろされると、にかっとした笑顔が見えた。

「あ、ありがとうございます……。また、助けてもらって」

 葵は申し訳なく頭を下げた。リリアがよいよいと首を振る。

「わしらの方も注意が足りんかったしのう。……それにこうしてお互い無事じゃったんじゃ、今はそのことを……ん? なでしこ……? どうした!?」

 慌てるリリアにつられてなでしこの方を見ると、彼女は青い顔で地面にうずくまり、身体を小刻みに震わせていた。

「なでしこさん!? どうしたんですか!?」

「ちょ……ちょっと……調子、悪いみたい……」

 消え入りそうな声で呟く。明らかに異常だ。

「まさか……!!」

 リリアはなでしこの左腕、先ほどケガをした部分に顔を近づけた。

「やはりか……」

 確信したかのように言うリリアに葵が訊ねる。

「なでしこさんになにが……」

「術による疑似毒じゃ!!」

 彼女は鋭い声で言った。周囲の人々も何事かと集まってきている。

「はよ治療せんと命にかかわる! 急いで船まで運ぶぞ!!」

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