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山田なでしこと竜の船  作者: さざなみ
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牛の王国

 銀竜号は広い平原の上を進んでいた。地平の果てまで草で覆われた、豊かな大平原だ。

 やがて、進む先に街が見えてきた。中央に大きな城があり、その周りに広い石造りの都市が広がる。

 街の端には地面が舗装された一角がある。空港だ。

 空港の地面には白線で大きな四角形がいくつも描かれ、その四角形の中に一隻一隻が収まるように、多くの箒船が停泊していた。なでしこたちと同じように、これから着陸しようとしている船も何隻かある。逆に今まさに飛び立とうとしている船もあった。

 銀竜号は徐々に速度を落とし、全長が船と同じ四角の上まで来ると停止。船の向きを調整すると、ゆっくり降下し、着陸した。なでしこたち三人が席に座る操舵室に弱い振動が走る。それが収まるとなでしこが立ち上がった。

「さ、着いたよ。行こう二人とも」

「二人って、私もですか?」

 葵が自分を指差す。リリアがそうじゃとうなづく。

「船の中とはいえ、一人じゃとなにかと危険があるからの。それに、街の歩き方や注意の仕方も教えておきたい。いつ地球へ行けるか判らんからの」

 リリアの言うとおりだ。葵はひょっとすると、一生この世界で暮らすことになるかもしれないのだ。暮らし方を知っておいた方がいいのは当然だ。しかし、葵は懸念を口にする。

「でも私、こっちの言葉もろくに判らないんですけど……」

「心配はないぞ」

 そう言ってリリアが懐から出したのは、金属を鳥の形にしたアクセサリーだった。翼が曲がり、頭はインコのような形をしている。裏面には先ほどリリアが見せた不思議な記号『呪文』が刻まれていた。

「耳に嵌めるものじゃ。ちょっとしゃがめ。付けてやる」

 どうやらイヤーカフスのようなものらしい。右の耳たぶを両翼が抱くようにアクセサリーを付ける。しっかり嵌っていることを確認すると、リリアが日本語でない言葉で言った。

「わしの言うとることが判るか?」

「は、はい……。あれ?」

 葵は気づいた。リリアが発したのは確かに日本語以外……おそらくこの世界の言語だ。しかし、なにを言っているのかはっきり理解できた。なでしこが説明する。

「翻訳機能がある魔道具だよ。それさえあれば意思疎通はできるから」

「わしが魔力を込めたでの、おぬしが持っておっても、しばらくは効果が持つ。それとこれとこれもじゃ」

 リリアはさらに花のついたツタの形をしたイヤーカフスと、花の飾りが付いたヘアピンを取り出す。それを葵の左耳と前髪にそれぞれ付けた。

 これは? と葵が訊くと、リリアが答えた。

「左耳に嵌めたのは邪霊などが使う読心や精神操作を阻害する能力がある。さすがにこんな街中で出くわさんと思うが、念のためにの。それで頭に差したのは……」

「これ見て」

 となでしこが手鏡を渡した。その中を見ると、

「ええ……!?」

 葵は驚いた。髪の毛が桃色になっていたからだ。いや、髪だけでなく眉毛やまつげにも同じ色が付いている。

「体毛の色を変える力があるの」

 葵は桃色になった前髪を引っ張りながら言う。

「な、なんでこんなものまで……」

「それは後で説明する。ほれ、行くぞ」

 とリリアに連れられ、三人は操舵室から下へ降りていく。途中、リリアが別の部屋に立ち寄って、彼女の背丈の倍もあるような大きな箱を軽々背負って戻ってきた。

「大事な飯のタネじゃ」

 葵が中身を訊くと、リリアはそう答えた。

 それから一行は甲板へ。縁に立つと、そこから階段が伸びて地面へ届く。三人は階段を降りた。

「わぁ……!!」

 葵が感嘆の声をあげる。空港の敷地、はるか遠くに銀竜号よりさらに大きな船がある。その近くに牛頭の巨人の姿があった。

 巨人は全身が青緑色の毛で覆われていて、上半身だけを地面から生やしている。頭までは二十五メートルはあるだろう。巨人の大きな腕が船の中に入ると、そこからコンテナを取り出し、積み木のように脇へ積み上げていく。

「あれも精霊なんですか?」

 葵がリリアに質問する。

「うむ。あれは青牛(せいぎゅう)じゃな。このファラリス王国の国霊じゃ」

「国霊……ってなんですか?」

「国家と結びつきの強い精霊族のことじゃ」

 よいか。とリリアが続けた。

「先ほど呪文で使う魔法を見せたが……実は精霊の場合、あれが無くても魔法が使える。こんな風にの」

 リリアが右腕の袖をめくると、肘から先が一瞬にして銀のうろこに覆われた。

「これって……!?」

 驚く葵。リリアが続ける。

「魔力を凝縮して鱗に変えた。このような力を霊能術と言う。種族によって使える力の数と種類は決まっておるが、基本的に呪文を使った魔法よりも強力じゃ」

 その先をなでしこが継いだ。

「当然、邪霊も霊能術を使える。だから、この世界の人たちは精霊と契約して、邪霊から守ってもらったり、自分たちの生活をよくしてもらってるの」

「じゃあ、この国は青牛さんに護ってもらってるんですか?」

 葵が言うと、リリアはうなづき、

「そうじゃ。青牛たちはこの国の民と個々に契約を結び、ああいう荷運びやら防衛やらを担って、人々の生活を助けておる。もちろん、精霊側にもメリットッはあるぞ」

 リリアは腕の鱗を消すと、素肌に戻った右手で自分の胸を指した。

「わしら精霊が精神のみの生き物じゃと前に言うたな?」

「は、はい……」

 正直、今もそれがどういうことかよく判っていないが、とりあえず葵は首を縦に振った。

「依り代を使ったり、魔力で肉体を作っても、わしらが外界に影響を与える際、その作用は大きく減衰する。ようするになにかしようとも、力の無駄な消耗があって効率が悪いのじゃ。しかし……」

 と今度はなでしこを指差した。

「人間のように情緒のある生き物と同調すれば、効率的に力を使うことができる。つまり力の触媒じゃな。それゆえ精霊は契約をするのじゃ」

「なるほど……。あれ? でも、待ってください」

 一旦は納得した葵だが、新たな疑問が浮かんだ。

「邪霊も精霊の一種なんですよね? 邪霊は契約とか必要ないんですか?」

 喰われる側の人間が、そう簡単に邪霊に力を貸すとは思えない。答えたのはなでしこだった。

「精霊は生きている人間を力の触媒にするけど、邪霊は殺した人間の魂を取り込んで、それを触媒にするの。その上、魂を取り込んだ分、素の力も強くなっていく」

 それからリリアが再び口を開いた。

「つまり、連中もより強い力を得るために人を喰う。犠牲者が増えるほど力は強くなる。それが奴らの厄介なところじゃ」


 ファラリス王国から、地球の距離換算でおよそ十キロメートル離れた位置に、四つ足の影があった。

 灰色の毛で覆われた、細い狼のような見た目。背中には蝙蝠のような翼を生やしている。

 それは顔をあげて、鼻を動かすと、牙の生えそろった口を大きく歪めて笑った。

『追いついたぞ、異世界の小娘……!!』

 その瞳には燃えるような怒りと狂おしいほどの狂喜が渦巻いていた。

一週間後までには投稿したいです。

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