TALK 3.ゲーム
大将、木戸から表に出て暖簾を引き下げるが、客席には一言も言わず、一瞥もくれず。
奥の木椅子にぶっつわり、パッチの脚を大仰に組んで、スポーツ新聞片手にコップ酒をちびちびやりだした。
「5回も6回もお出ましになるのは大変でしょう」
『まあね』
「あれって、誰がどこに立つとか決まってるんですか」
『何となくね。どこの家庭でも、晩飯で座る位置とか自然に決まってるでしょ。それとおんなじよ。いろいろなこと言う人がいるかもしれないけど、とっかかりはそういうもんさ』
「テレビで拝見していると、お言葉を交わされたりしてますよね」
『えっ? あれ、見えてる?』
「まあ、はい」
『そいつはまずいなぁ。もう止そう』
「何故です?」
『あれはね……今日はあんたと特別な縁だと思うから言っちゃうけど、ゲームやってるの』
「ゲーム?」
『ほら、下にいっぱい人がいるでしょ。白い旗振ってる』
「国民」
『あれね、ベランダに立って、こう、右と左の黒目をじぃーっと鼻ッ柱の方に寄せていくと、だんだんぼやけて見える』
「はあ、そうでしょうね」
『それを集中を切らさず続けていくと、やがて下の群衆が、一つの白い布団みたいな塊になる』
「あー! はい、たぶん、なりますね」
『それが一番長く続いた人が、一等賞』
「へえ、一等賞。何がもらえるんです?」
『もらえるもなにも、総取りだよ』
「え……。それって審査員はいるんですか?」
『自己申告だよ』
「え?」
『うちら家族、信頼し合ってるからね。おっと、壬申の乱とか出すなよ』
「うわ、なつかしぃ。日本史の教科書に載ってた」
『あれ、いい加減外してくれないかな。いまどきどこの家庭が何百年もさかのぼって自分んちの喧嘩をさらけ出す?』
「で、そのぼやかすゲームですけど、いつも誰が強いんですか」
『あ、それな』
「はい」
『目を寄せていくんだぜ。「目の寄るところに玉」っていうだろ。玉ってったらあんた、玉の輿よ』
「……すみません、理解力が無くって。どういうことです」
『言わせんな。輿入れした女房連中さ』
「なぁる。またしてもロイヤルジョークですね」
『笑え』
「え、へへ、へ」
『おっと、表で言うなよ。女房連中の強いことが世間に知れると、容認されちゃうかもしれん』
(おしまい)