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TALK 2.人酔い。

 並ぶ徳利、重なる小皿。

 小鉢の中には枝豆の剥き皮。



『――あんた、私らが楽してると思ってるでしょ』


「とんでもない。ぼくなんかの方がずっと」


『こら。こっちが真面目に聞いているのに、自分を落としめてまで話を逸らそうとするのは失礼だぞ』


「すみません。……辛辣でいらっしゃる」


『一応、学者だからね。神経は行き届くよ』


「はあ」


『まあ、こっちがおおっぴらに人前に出るのは年に何回かしかないからね。あんたらがこっちの実情を分からないのもしかたがない。こう見えて、意外にみんなが知らんような苦労があるんだよ』


「例えばどんな――」


『年に二回、一般参賀ってのがあるだろ?』


「はい、ニュースで見たことが」


『そうそれ。その日はウチの庭に人がいっぱい集まるから、ベランダに出て、手ェ振って応えるんだよ。朝から入れ替え有りの五回公演だ』


「寄席の正月興行以上ですね」


『一回でざっくり1万人以上来る。私の最後の年なんか、七回入れて16万人近かった。それがみんな手に旗ァ持って、一斉にバタバターッてやるんだよ』


「はい、それもテレビで観たことがあります」


『あれさぁ、テレビで観てる分には分からないかもしれないけど……。これ言ったところであんたに想像つくかなぁ』


「なんです?」


『上からずっと見てると、酔ってくるんだ』


「えっ」


『おびただしい人数が、みんな旗を持って、ずーっとパタパタやってんだ。目がチカチカして頭が痛くなる。胸がムカムカしてくるんだよ』


「へえっ」


『しかもあれ、不思議なことに、ある一角を限定してじっと眺めてると、だんだん旗の振れようが同じリズムで同じ方向に靡くようになるんだよ。だけど時間が経つと、ほつれるように崩れていく』


「近いところ同士の踏切の音が、シンクロしては離れていくみたいな感じですかね」


『それは知らん』


「あ、すみません」


『その謝り癖、よくないよ』


「あ、すみま――はい」


『とにかくな、あれ、じぃっと見てると、気分が悪くなるのよ』


「思っても見ませんでした。でも分かる気がします。酔うんですね。いやあ、大勢に旗なんか振られたことないから、知らなかった」


『ほんとにそう思う?』


「は?」


『いやだから、本当に酔うと思う?』


「……どういうことです?」


『分かんないかなぁ、このリアリティ溢れるロイヤルジョーク』


「あっ、もしかしていまの嘘?」


 ご老人、はっはとお笑いになり、


『さあてどうかな? ちゃんと見てないからよく分かんない』

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