TALK 1.めぐりあい
夕暮れがた、赤提灯に火が入る。
年若いサラリーマンの男性がネクタイを緩め、黒ずんだ一枚板のカウンタで一合徳利を傾けていると、奥の身なりの好いご老人が会釈なさった。
とても感じのいい方。
サラリーマン男性は相手の御顔を見て、すぐにハッとした。
滅多にない事と、ためらいつつ声を掛ける。
「あのう、はじめまして。まさかこんなところでお会いできるとは……」
『こちらこそはじめまして。もっとも、私がこういう場所でこんな形で人に会う時、みなさんもれなく初めてですがね』
「お元気そうで。前にテレビで御尊顔は……」
『はいはい、そりゃどうも。そっちはこっちの顔を知ってるだろうけど、こっちは何にも知らないから、そこのところは汲んで欲しいですね。表を歩いてて、ふとみんなに知られていると思うと、気味悪くなることがあるのよ』
「あ、失礼しました。ほんと、すみません」
『いいよいいよ。慣れているから』
「あのう……長いことご苦労様でした」
『でたそれ。みんな言ってくれる。ほんとに良い国だよ。でもそれ本心?』
「え?」
『今やネットとかあるから、こう見えて、いろいろ知ってますよ。みんな結構、いろんなことのたまってるじゃない。いらないとか、やしなってるとか。一時期はひどかったんだから――最近そうでもないけど』
「と、とんでもない。ぼくは思ってませんよそんなこと」
『ちょっと想像してみてくださいよ。こっちは生まれてこの方、しきたりを受けれいて、まっとうに、正直にやってんですよ。それなのに選挙権もないし、職業選択の自由もない。これじゃまるで服役だ。前にちょっと銀座ブラブラしただけで、いまだに言われる』
「それはおつらい」
『可哀想といえば、いま、孫娘が』
「やや、その話は。大変失礼ですが、このトック――御神酒を」
『御神酒! そう来たか! あは、気が利いてるね。こちとら親父の代までアラヒ――おいおい、あなた、お手酌はいけませんよ。ちょっと貸しなさい』
「わわわわもったいないことです」