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卒業パーティまであと5日

「来る途中で嫌なものを見てしまったわ」


 ミシェル・ローレンは薬学準備室に入るなり、忌々し気に吐き捨てた。


「あのふたりったら裏庭の温室で、こともあろうに」

「うん、分かった。それ以上言わなくていい」

「せめて人目につかないところでやるくらいの節度はないの? 動物なの? 子供でもできたらどうするつもりよ!」

「どうするつもりって、そりゃ結婚するつもりなんじゃないのか?」

「ええそうね、そうなんでしょうね。分かってる」


 ミシェルはがっくりとうなだれた。

 そしてそのまましばらくうつむいていたが、やがて顔をあげると、うつろな瞳で問いかけた。


「ねえ先生、ここって薬学準備室で、色んな薬があるのよね?」

「言っとくけど惚れ薬のたぐいは置いてないぞ。その手の精神操作系は専門の研究室で厳重に管理されているからな」

「それくらい分かってるわよ。でも毒薬くらいはあるでしょう?」

「アリシア嬢に使うつもりならやめとけよ。平民相手でも殺人罪は重罪だぞ」

「いやぁね先生ったら。そんなことするわけないでしょう?」

 

 ミシェル・ローレンはさもおかしそうに微笑んだ。


「じゃあ何に使うつもりだよ」

「ふふっ、そんなの決まっているじゃない……アスランさまを殺して私も死ぬの!」

「マジでやめろ! 反逆罪で公爵家ごと潰されるぞ。ついでに幇助罪で俺も捕まる」

「だって他に方法がないのよ。婚約破棄を阻止するには、もうアスランさまを殺すしか……!」

「落ち着け、君はちょっと疲れてるんだよ。……ああそうだ、紅茶飲むか? 今淹れてやるから、な? 今後のことはそれを飲んでから考えよう?」


 エドガーが紅茶を淹れて差し出すと、ミシェルは無言で受け取った。

 一杯目を飲み終えてから、ミシェルはほうとため息をついた。


「ごめんなさい、あまり酷いものを見たせいで、ちょっと取り乱してしまったわ」

「ちょっと……? いやとにかく正気に返って良かったよ」

「これいい香りね。初めて飲んだわ」

「実は俺が裏庭で育てた特別製なんだ。気持ちを落ち着かせる効果がある」

「ふうん、もう一杯いただけるかしら」

「ああ、もちろん……なぁミシェル・ローレン」

「なあに、先生」

「君はちょっとアレなところもあるけど、根はいい奴だし、面白いし、そういう君のいいところを理解して好きになってくれる男性はちゃんといると思うよ。別にアスラン殿下にこだわらなくても」

「いきなり何を言い出すのよ。似合わない慰めは結構よ」

「やっぱり似合わないか」

「そうよ。ぜんぜん似合わないわ。先生はいつものように課題はまだかって催促してる方がらしいわよ」

「分かった。そこまで言うからには課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」

「そのことなんだけど、課題はひとまずおいといて、先に卒業だけさせて下さらないかしら。ね? 先生。あとで必ず提出するから」

「そんな代金後払いみたいなふざけた卒業認定があってたまるか。だいたい卒業式が終わったら俺はもう――」

「え?」

「いや……とにかくもう一日だけ待ってやる。俺は明日学校に来ないから、課題は教務の方に提出しろ。いいか、明日出さなかったら本当に留年させるからな。絶対だぞ!」


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