卒業パーティまであと6日
公爵令嬢ミシェル・ローレンは薬学準備室のソファにぐったりと身を沈めていた。
「あああ馬鹿みたい、今日も一日あの女のことを聞き回って、勘違い男のひとりひとりにお説教してしまったわ。もう本当に馬鹿みたい」
「お疲れさん。君はひとりの女生徒の名誉を救ったんだよ。学院教師として心から君に感謝したい」
「皮肉は止めて」
「しかしまあ、あれだな。誰にでも笑顔で接するアリシア嬢って、実はすごくいい子なんじゃないか?」
「アスランさまにべたべたする平民女がいい子なわけがないでしょう。私という婚約者を差し置いて!」
「そうだなぁ。その一点なんだよな。他の点ではわりと常識的で節度のあるアリシア嬢が、アスラン殿下に対してだけは明らかに一線を越えてるんだよな」
「真実の愛、とでも言いたいの?」
「さあ、そこまでは。単に大物一点狙いなだけかもしれないし。ただ愛情にしても打算にしても、軽い気持ちでやってるんじゃないのは確かだな。仮に今回の婚約破棄を阻止できたところで、あのふたりの関係は続くだろう。君がめでたく殿下と結婚した暁には、あのバカップルのいちゃつきぶりを特等席から毎日見物する羽目になる」
「……ようするに何が言いたいの?」
「ようするに……なぁミシェル・ローレン。君はいったい殿下のどこがいいんだ?」
エドガーの質問に、ミシェルはきょとんとした表情を浮かべた。
「どこって……アスランさまはなにもかもが最高じゃないの。ハンサムだし、ダンスも上手いし、ハンサムだし、それに……それになんと言ってもハンサムだわ」
「そうか。最高なんだな」
「そうよ。それじゃ、疲れたから今日は帰るわね」
「そうだな。早く帰って課題をやれ。分かってるだろうが、提出期限は明日だからな!」