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卒業パーティまであと7日

 そこからのミシェルの行動は早かった。まずは自分に悪評を教えてくれた侯爵令嬢に連絡を取り、そこから噂の糸を手繰って手繰って、ついには実際に被害に遭ったという男子生徒に到達したのである。

 ところが事態はそこから思いもよらない展開を見せた。




「ええそうなんですよ。あの性悪女はボクに散々思わせぶりな態度を取ってきたくせに、あとになって、私そんなつもりじゃなかったのにぃ、とこうですよ。酷いと思いませんか? ローレンさま」


 その青年――アリシアと同じクラスの子爵令息は、鼻息も荒く訴えた。


「ええ本当に酷いわね。それで思わせぶりな態度って、具体的にどんなことをしたのか、詳しく教えて下さらないかしら」

「はい、もちろんです。まずですね、教室で顔を合わせるでしょう? そうしたらあいつ、笑顔でお早うって挨拶してくるんですよ」

「え?」

「ですから挨拶ですよ。しかも笑顔ですよ? 満面の笑顔!」

「でもその……挨拶くらい普通するものじゃないかしら」

「しませんよ。女子からの挨拶、それも笑顔つきなんて、ボクには初体験でした!」

「そうなのね……」

「しかも同じ班になったときには、アルバートくんも一緒に頑張ろうね、なんて言い出して、ボクの作った資料を、とっても分かりやすいねって褒めてくるし、おまけに手作りクッキーなんて持ってきて、ボクに食べてっていうんですよ?」

「それは貴方個人にもってきたのかしら」

「いえ表向きは班のみんなで食べようって言ってましたけど、でも目当ては明らかにボクでした!」

「明らかなのね」

「そうです。それで同じ班の連中がたまたまみんな休んでて、学習室に来たのが彼女とボクのふたりだけだったことがあったんです。彼女は最初ちょっと学習室に入るのをためらってたんですけど、ボクが課題をやるために入ろうって言ったら、結局同意したんですよ。あの狭い部屋に若い男女がふたりきりですよ、ふたりきり。これはもう誰だって、オッケーだと思うじゃないですか」

「え、ごめんなさい。ちょっと待って下さる?」

「それでボク、頃合いを見計らって押し倒したんです。そうしたら彼女、『待ってアルバートくん、落ち着こう?』とか言い出したんですけど、でもやっぱり笑顔のままで、本気で嫌がってる風じゃないんです。だからボクはそのまま彼女を抱きしめて――」

「待ちなさいって言ってるでしょう!」


 ミシェルはそう一喝すると、目を丸くしている男子生徒に対してびしりと扇を突きつけた。


「いいこと? 部屋でふたりきりになったからといって、なにか特別な許可が出たと考えるのは心得違いもいいところです。彼女が学習室に入るのに同意したのは、貴方はあくまで課題のためだと言っているのに、変に警戒して見せたら失礼だと思ったからに他なりません。笑顔のままだから嫌がってないというのも、とんでもない心得違いです。ふたりきりのときに貴方みたいに大柄な男子にのしかかられたら恐怖だし、下手に刺激しないように笑顔を浮かべるのは防衛本能のなせるわざです。――この件は全て学院に報告させてもらいますからね。沙汰があるまで謹慎しなさい!」




 ミシェルが己のやったことの意味に気付いたのは、憤然とその場を立ち去って、その足で薬学準備室に報告に行き、しかるべき処分をするようエドガーに要請したのちのことだった。



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