8:馬小屋で寝るらしいんだが…。
門をくぐる時、門番が肩に乗ったゼリをやたら睨んでいたが、俺が一言動くなとだけ言って、一応、町には入れた。あれから一言も言葉を交わすことなく、俺は町を見るどころではない。
「……。」
表情を変えなかったセレナだがふと口を開いた。
「…カン違いしないでくださいね。アレンはこの町に来るのは初めてなんだから、身内にしてしまえば怪しまれないでしょう?」
「…え、あぁ! うん、分かってた、大丈夫!」
いや、ほんと。なんか、すっごい意識してたなんてことは無い。
…ん? でもそれなら……
「それなら、兄弟でもよかったんじゃないか。」
わざわざ夫婦にしなくとも、血の繋がりがあるわけだし。そう言って、セレナを見る。
「……。」
しかし、セレナは無反応だ。
聞こえていないのかと思い、セレナの顔を覗いてみる。
一瞬、目が合ったと思えば、顔をそむけ、後ろに垂れていたフードを被ってしまった。
「………無視かよ。」
未だ反応はなく、俺は諦めることにした。
しかし、改めて町を見渡すと、なんだか地球で言う西洋のつくりといった雰囲気だ。木の建物もあれば、所々に石造りの建物もある。そして、やはりここからでもあの高い塔がよく見える。どうやらあの塔は時計台になっているようだ。
「なぁ、今どこに向かっているんだ?」
「……宿。」
とだけ、フードの中から返事が聞こえた。まったく、セレナはどうしてしまったのか。
辺りは薄暗くなってきたし、疲れも相当ある。
「それはいい! 早く、休みたいよ。」
「……。」
それから数分後、宿と思わしき看板のある二階建ての建物に着いた。
「やっとかー! もう、クタクタだしな、早く入ろうぜ!」
「待って。」
「なんだ?」
「アレンはあっち。」
セレナが指さしたのは宿の隣、馬小屋だった。
「……。」
「それじゃあ、また明日!」
そそくさと宿に向かうセレナ。
「おい、ちょっと待て。
まさかお前、自分だけフカフカベッドで寝るつもりじゃないだろうな。」
「……。」
「お嬢様、寝室はこちら…ちょ、動くな!」
セレナの脇の下から肩を固定する。
「だってお金ないんですから、しょうがないじゃないですかぁ!」
「なら、尚更明日のために節約だ!」
セレナはすねた様子で俺の隣に横になる。下にはワラが敷いてあるので寝心地は悪くない。
ただ、あえて言うならば、匂いが独特…
いや、臭い。
目をつぶって考える。この女は魔王の娘らしいが、悪いやつではなさそうだ。これから、どうなるんだろう…。
「なぁ、明日はどうするんだ?」
反応はない。あれだけ嫌がっていたのに、寝るのは早いんだな。
「ゼリ、長方形に広がれるか?」
ゼリは枕に形を変えた。それを、そっとセレナの頭の下に入れる。
「おやすみ。」
そう言って、俺は再度目を閉じた。
金なしですね。