6話:俺の記憶が薄れていくんだが…。
「……?」
セレナは頭をかしげる。
名前が思い出せない。
急に頭にモヤがかかった気がした。俺が事故に遭う前、俺が日本にいた頃の記憶が断片的なものになっていた。それはまるで自分の人生じゃないみたいに。本に出てくる主人公の物語を読んでいるように。
「思い、出せないんだ…。」
イライラする自分を抑える。
「それって、記憶がないってことですか?」
セレナは立ち上がり、泥を払っていたが手を止め、確認する。
「……。」
セレナは心配そうに俺を見上げたが、すぐに考え込んでしまった。
「どこから来たんですか?」
俺は、ふと我に帰る。記憶を確かめるためにセレナが俺に質問をした。答えはもちろん『日本』なのだが、異世界から来た俺にとっては関係ない。
俺は冷静に考える。それに、記憶がなくなっている訳では無い。名前を思い出せないのは、驚きだが、ここはこの流れを利用するとしよう。
「なにも、思い出せないんだ。」
魔王は驚きの表情を浮かべた。
この世界のことを何も知らない俺にとっては、記憶がない設定は都合がいい。
魔王はまた、考え込んでしまった。
「君の名前は、アレンです。
仮…ですがそう呼ばせてください。」
「アレン…分かった。俺はアレンだ。」
とても不思議な気分だ。そんな名前ではないということは分かるのだが、以前からそう呼ばれていたような名前。しっくりくる。
「よし、それじゃあ行きましょう!」
ぱっと明るい笑顔を俺に向ける。
俺は気を取り直して、町へ向かうことにした。
隣には魔王を名乗る女、肩には魔物のゼリを乗せて歩き出した。
家なし。明らかに人間ではないものも引き連れて町へ繰り出す。