4話:魔王を名乗る女が俺の足をつかんで離さないんだが…。
ここが、魔王の城…なのか?
異世界で最初に送られた場所が森の中だったので正直、いきなり迷子になったようなものだった。なので、行くあてはもちろんない。ならばと、この自称魔王の話にのってみる事にした。
そして俺は、魔王の城にやってきた。
うん、そこまではいい。そこまではいいのだが…。
なんだこのボロ屋は。小屋全体が、腐りかけの木で作られているような。今にも崩れそうだ。
この自称魔王いわく、これ…これが……
「な、何笑ってるんですか!!」
「いーから入りますよ!!」
自称魔王は扉を開け、足早に城(笑)に入っていった。閉まりかけた扉をおさえ、俺も中に入る。
予想とは裏腹に、中はホコリっぽいなどということは無く、綺麗にされていた。
「…そんなジロジロ見てないで座ってください。」
小さな部屋の真ん中には、丸いテーブルとイスが1つずつ置かれていて、その周りにベッド、棚、キッチン(?)がある。
とりあえず、イスに座り自称魔王の様子を伺う。
「コーヒーでいいですね。」
背中を向けた自称魔王は言った。
この世界にもコーヒーと呼ばれるものがあるのか。
「え、あ、あぁ。」
コーヒーがテーブルに出されたが、まだ手をつけないほうがいいだろう。
ここで毒をもられでもしたら…
「毒は入ってないですよ。」
「……。」
自称魔王は自分の分のコーヒーを1口すすった。
「それで? なんで俺はここに連れてこられたのかな?」
コーヒーには触れず、本題に入る。
「先程も言ったように、あなたはその魔物を従えている。私の知る限りでは魔物は人間に従うことはありません。」
「なぜなのか! と聞いているんです!」
やはり来たか。なんと説明するか…。ここは正直に言っていいのだろうか? この際仕方がない、秘密にすることもないだろう。
「このチカラはあなたが言うように魔物を従わせることが出来る。ただし、下級の魔物だけだがな。」
「このチカラは…神(正確には神を名乗るなにかだが…)に授かったんだ。」
自称魔王はもう1口コーヒーをすする。
「正直に言って貰えますか。」
おっと。
「神なんている訳ないじゃないですか。」
すごい真顔だ…いや、人を哀れむような目でこちらを見つめている。マジで言ってやがる。
自分を魔王と言っているやつが何を言っているのやら…。
「いや、事実なんだが…」
一応、嘘ではない。
「…面白くないですよ。」
おい、こら待て。この自称(←ココ大事)魔王め。
「ちょっと聞きたいんだが、人の町はどちらだろうか?」
「え、えっと…こっちの方を真っ直ぐ行けば国が1つあるけど……。」
「うむ、分かった。これで失礼する。コーヒー美味しかったぞ。」
俺は別れの挨拶とともに、扉を開ける。
「ま、待ってください! お願いします! 謝りますから! 面白かったです、実に面白い冗談でした!ですから、ね? ね? ね!?」
「それに、コーヒー1度も飲んでないじゃないですか!!」
自称魔王はヒザをついた状態で俺の足をガッチリとホールドしてしまった。倒れそうになった俺は柱に手をかけた。
ギシ…ギギギギギィィィィィ!!!
「…あ。」
「…あ。」
ガシャーーーン!!
オンボロな城はついに、小屋ですらなくなってしまった。壁も屋根もない。
「…………。」
「じ、じゃあ俺はこれで…ちょ、は、離して。」
「なに、1人逃げようとしてるんですか。」
足をつかむ力はいっそう強くなった気がする。
魔王を名乗る女が俺の足をつかんで離さないんだが、俺はどーすればいいですか。
本当に魔王なのか? 『俺』はどーするのか?