2話:角女がなにやら俺に話があるようなんだが…。
アイツ……どうやら、あの自分勝手な神は大事な事をサラッと言って帰ってしまったらしい。
アイツは確かに言っていた。今の俺には、なにやら不思議な力があるようだ。
下級の魔物であれば、従えることができる。
まさに今、この一瞬。魔物らしき生物に襲われている。ならば……
「やめろ!! 俺を食っても美味しくないぞ!!」
自分でもガッカリだ…。こんな、低レベルな命乞いみたいになってしまうとは。
しかし、効果はあった…
ゼリー状の魔物はなにもすることなくプルプルと揺れているだけだった。
「フゥー、助かった…。」
無意識に全身に力が入っていたようで、重度の筋肉痛のような痛みが残っていた。
俺は、一度身体を起こしてから再度、木を背もたれにして座った。
その魔物は変わらず、じっとしている。
俺は、少し実験をしてみることにした。
「…飛び跳ねろ。」
すると、水風船が跳ねるような動きでタプンと上下した。
こんなことを受け入れてしまう自分が怖いが、実際ソレは目の前で起こっているのだ。
「なんかお前、可愛いな。お前……いや、今日からお前の名前はゼリだ!!」
我ながら、ナイスなネーミングセンスだ。
もうちょっと遊んでみよう。
「1周回って、ジャンプだ!」
ゼリはすぐさま実行に移した。
これは、なんというか…
おもしろい。
「お前、俺の言葉がわかるのか?」
ゼリの動きはなかった。きっとこれはあくまで、チカラによるものでコミュニケーションができる訳では無いようだ。
アイツも言っていた。知能のないバカなモンスターなら…と。
試しに、手のひらを差し出してみる。すると、ゼリは手のひらにジャンプし、乗っかってきた。
冷たく、とても柔らかい感触。
「目…とかあんのかなぁ…。」
ゼリを顔の高さまで持っていき、観察してみる。
それらしきものは全然……ん?
なにかが、木の影に隠れている。
なにかが……
―――角!?
禍々しくうねった角が少し見える。
しかし、それがなんなのかを考えている暇はなかった。あの神が言ったように、下級の魔物がいるなら上級の魔物が存在するということ。
そしてそれは、チカラが通用しないということ。
俺は、逃げ出した。今度はしっかりと地面を踏みしめて。
俺は、全力で走った。
「えっ…まっ…まって!! ちょっと止まっ…」
「痛ぁぁぁぁ!!」
後ろから、ズサーーという音が聞こえる。
「………んん!?」
人の声がした。しかも、理解できる言葉だった。
振り返るとそこには、黒っぽいローブのような布を着た、長い黒髪の女性がうつ伏せで倒れていた。ただ人間と呼ぶには悩ましい、2本の角が頭から生えていた。
「いたたたた………あ、待って! お願い!」
その女性(?)は涙目で俺に訴えかけてくる。
泥のついた顔だが、年は俺と…同じくらい?
「驚かせてごめん…。人間の子…だよね? 君に…」
「…君に、話があるの。」
謎の角女、その正体は!?