Merry X'masを君に
俺はとても焦っていた。
時刻は午後五時、普通なら焦るなどないそんな時刻に俺が焦っているのは今日の日付が原因だ。十二月二十四日ーークリスマスイヴ。
そして、この日は定時に帰り恋人と過ごすという約束をしているからだ。
「くっそ、今更こんな書類持ってくんなよ…」
俺はついさっき渡されたデータを睨みながら愚痴る。しかも、これは今日中にしなければならない。俺が帰ったあとなら、最悪明日でいいのだが、仕事を終わらせようとし始めているこの時間に来てしまったから、これも終わらせなければならない。
「…こりゃ、間に合わないな」
データを処理しながら深い溜息を吐く。これが三十分で終わるようなものならよかったのだが、到底そういうものではない。
「…とりあえず、電話するか」
俺はそう思い、廊下に出て電話をかける。
「悪い、遅れると思う」
「お仕事ならしょうがないよ」
「ほんとごめん。できるだけすぐに終わらせて帰るから」
「気を使わなくていいよ。それよりお仕事頑張ってね」
言われた瞬間、彼の笑顔が頭をよぎる。
「…あぁ」
申し訳なさいっぱいで、返事をして電話を切る。
「よし、早いとこ終わらせるか」
俺はそう自分に言い聞かせデスクへと戻る。
◇ ◇ ◇
「はぁ…、とりあえず片付けようかな」
僕はテーブルの上に用意していた食器を片付けだす。ただ、飾り付けを片付ける気にはさすがになれなかった。
「お仕事なら、しょうがない…か」
自分で言ったセリフを反芻する。かなり聞き分けのいい子に見える。でも、そんなわけない。僕はそんな綺麗な子じゃないと思う。
◇ ◇ ◇
あのあと、さらに仕事が増えたうえに、飲みに連れていかれてしまい、結局帰路に着いたのは午後十時を回る頃だった。
「ただいま」
俺は恐る恐る部屋に入る。返事がなかったのでそのままリビングに入る。見るとかれが机の上で突っ伏していた。
「悪い、こんな遅くなるつもりはなかったんだが…」
俺はそういいながら彼の傍に寄る。
「僕より仕事が大事なの?」
彼はこちらに顔を向けて静かに言う。口からはほのかに酒の匂いがした。
「お前、酔ってんのか」
「だって、なかなか帰ってこないんだもん」
そう言いながら彼はムックと上体を起こす。
「いや、上司に飲みに誘われたら断るわけにもいかなくてさ」
「僕よりその上司が大事なの?」
「なんでそうなるんだよ!」
「だって、そうじゃん。僕が大事なら断ってよ」
「無茶言うなよ…」
「やっぱ、僕より大事なんだ」
言うと彼はいじけるように俯く。
「あぁ、ったく、んなわけねぇだろ」
俺は自分の頭を軽くかいてから、彼を椅子越しに抱きしめる。
「…うそ」
「なんで嘘なんだよ。俺がこんなに愛してるのはお前だけだ。仕事だって全部お前のためみたいなもんなんだから」
「…」
「それに、まだ、イヴは終わってないだろ」
「そうだけど…」
「お前の作ったケーキを俺がどれだけ楽しみにしてたと思ってんだよ」
「うん…ずっと言ってたから」
「なら、俺がどれだけお前が好きかも知ってるよな」
「…うん」
「それが答えだよ」
「信じていいんだよね」
彼はこちらに顔を向ける。
「あぁ、当たり前だろ」
俺はそう言って彼の唇に自分の唇を重ねる。
「じゃ、パーティをしよう」
一度離して、俺はそう呟き再び重ねる。
「うん。その前にもう一回だけ」
そうねだる彼に俺は先ほどよりも長く、甘いキスをした。