マリア降臨!
マモル達は町に戻り、体を休めるのにちょうど良い宿を探していた。
郊外を抜け、張り詰めた気を解いた瞬間、戦闘による疲れがどっと押し寄せてきて、今はもう疲労こんぱい。
セイラなんか、首がたまにカクンとなって、歩きながら半分寝ている状態だった。
一方町では、なぜかもう魔王連合の1人を倒したという噂が広まっており、マモル達をジロジロと見ながら小話をする村人たちが見受けられた。
だがそんな事は眠気やら何やらでまったく気にならず、マモルはひたすら「宿」の文字を重い目を擦って探していた。
「あなた達、待つの!」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには小柄な少女がこちらを見つめていた。
水色の髪に二つ結び、これはツインテールというのだったか。その髪型がますます少女らしさを際立たせていた。
正直今は疲れてまともな応対が出来る自信が無い。
「魔王連合を討ち滅ぼせし者たちよ。我と共に混沌の闇を払いし英雄となるの!」
あれ、おかしいな。この子が言っていることが全然分からない。
混沌の英雄が魔王の闇、とか言ったか?
ダメだ、完全に疲れている。
きっとぼくがちゃんと聞き取れていないだけだ。早く休まないと。
セイラはもう完璧に寝ながら歩いている。
マモルはまたすたすたと進み出した。
「我の言葉を無視する気か、ではあなた達に神の定めし裁きの鉄槌が・・・ってちょっと!ホントに待つの、お願いだからー!」
後ろで少女が何か叫んでいるが気のせいだろう。
宿を見つけ、ベッドに飛び込むと同時にぼく達は眠りについた。
・・・そして起床。
置いてある時計を見てみると、ちょうど半日が過ぎていた。
隣のベッドではまだセイラがだらしなく寝ている。
毛布は床に転げ落ち、足はベッドから完全にはみ出した状態だ。
これからはもっとセイラに注意するべきだろうか。いや注意した所でまず聞かないだろうな。
窓を開けると、暖かい日差しと気持ちの良い風が部屋の中に入ってきた。
気分も良し、身体も軽い。
どうやら昨日の疲れは大分取れたらしい。
そういえば昨日はあの戦いのあとどうしたんだっけ?
そう思いながら部屋の扉を開けようとすると、何かにぶつかった。
なんだろうと思い、そっと隙間から覗くと、そこに1人の少女がいた。
扉の前で、膝を抱えた体育座りのような格好で寝息をたてている。
ぼくはその少女に見覚えがあった。
「この子確か・・・。」
チグハグな記憶の中で、昨日の出来事を思い出す。
それは昨日のツインテールの少女だった。
こちらの気配に気づいたのか、一つ大きなあくびをしてこちらを見上げた。
「ふぁ・・・。ここ、どこなの?」
数秒の間見つめ合って、お互いに首を傾げる。
すると少女は正気に戻ったのか、ハッとして立ち上がり1,2歩下がろうとした。
だが態勢が悪く、床に盛大にしりもちをついた。
「あうぅ・・・っ!」
と何とも情けない声をあげて、痛みを堪えていた。
暫くしてようやく痛みが引いてきたらしく、少女は素早く立ち上がった。
「おい貴様、昨夜はよくも我を無視してくれたの。今日こそ天に背きし貴様らに断罪の一撃を・・・。」
「昨日からここにいたのか?」
「え、うん。あなた達を追ってここに・・・ってちがうのー!」
少女は頬を膨らませてピョンピョンはねている。
水色のツインテールも動きに合わせて上下に揺られた。
何だこの子は、面白いな。
しかしどうしてぼく達に話しかけてきたのだろう。もしかして昨日の戦いと何か関係があるのか?
「ぼくはマモル。君の名前は?」
すると少女はまた先ほどまでの調子に戻って言った。
「ふっ、我はマリア。神に仕えし天使、神聖なる6つの精霊を操りし者なの。」
後半は何を言っているかわからなかったが、なるほど、マリアというのか。
「じゃあマリーだな。」
「なっ我の尊い名にあだ名とは・・・。」
その時、セイラが伸びをしながら部屋から出てきた。
「んんー。マモルどうしたの?」
やはりというべきか。セイラの服は乱れていて、直す気は更々無いようだった。
「セイラ、服。」
「あ、うん。」
そう言うと、意外にもセイラはすぐに乱れた服を直した。
おお、これは成長といっていいのだろうか。
何にしてもこれはいい兆候だな。
「丁度いい。悪を討ち倒しし者たちよ、わが戦士となり共に最悪の輪廻を終極させるの!」
あ、まずい。これは昨日と同じ展開・・・まったく理解できないぞ。
まずこれは日本語なんだよな。
「なるほど、【わたしも仲間に入れてください】だって。」
え、そういう意味だったのか?
というかなんでセイラはマリーの言葉が分かるんだ?
マリーはマリーで満足そうな顔をしている。
「なあセイラ、なんで今のが分かったんだ?」
「マモル知らないのか?こういう話し方。私だって昔は・・・。」
言いかけてセイラは口を手で押さえた。
心なしかセイラの顔が赤い気がする。何か恥ずかしい事でもあったのだろうか。
でもよく考えてみるとセイラが恥ずかしがるなんて初めてのことだ。
いつもは恥ずかしがる場面でもあっけらかんとしているのに。
だとしたらこれはかなり貴重なことなのかもしれない。
「それでどうだ、我を聖戦の徒として迎え入れるのか?」
若干の上から目線は気になるところだが、ぼくとしても仲間は多いほうがいい。
「分かったよ。これからよろしくなマリー。」
「やったのー!」
マリーは満面の笑みで小さく飛び跳ねた。だがマモル達の視線を感じてすぐに冷静に戻る。
「マリーは何かアビリティーを持っているのか?」
多少の期待を込めた聞き方をした。
わざとではない、ただもしかするとマリーもぼくと同じようにアビリティーを持ってないかもしれない。
その可能性が自然とそうさせたのだ。
でも答えは残酷。
「無論。さっきも言ったの。神聖なる6つの精霊を操りし者と。」
何というか、ガックシだ。
まあアビリティーゼロが仲間内で2人いるというのもどうかと思うが。
今でもぼくのような【お荷物】が増えるのは御免だ。
ああ、また卑屈性。
セイラが続けて尋ねる。
「マリア、それはどんな能力なんだ?」
マリーは待ってましたとばかりに構えた。
「わが力見るがいいの!」
そう言って包帯を巻いた左腕を右腕で押さえはじめた。
・・・なんで包帯を巻いているんだ?
するとマリーの左手に小さな火が灯った。
「これがマリーのアビリティー?」
「我のアビリティーは『エレメンタラー』。今のは火の精霊の力なの。」
マリーはますます得意げに鼻を鳴らした。
なるほど、精霊使いというものか。
これまた使い勝手の良さそうなアビリティー。まったく羨ましい。
「それでマモルの絶対防御のほうはどうなったの?」
「それがまた発動できなくなったんだ。」
「そっかー、一筋縄じゃいかないなー。」
そう、ぼく自身あの感覚を思い出して試してみたのだが、あの青い光が出ることはなかった。
やはり実践とは訳が違うようだ。
「とりあえずギルドへ行こうぜー、まだワーフロッグの報酬ももらってないし。」
「そうだな。ついでにつぎの情報も集めよう。」
「おー!」
そして私達はギルドに向かった。
目的は情報収集と報酬受け取り。ついでにつぎの依頼のための準備もしておこう。
「マリー、何やってんだいくぞー。」
「あ、ちょっと待つのー!」