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鍛冶師で兄貴で

カンカンカンカンッ―


遠くのほうで音が聞こえる。高い金属音だ。


リズミカルに打ち付けられるその音と鉄の独特なにおいが鼻をつく。


どうやら意識は戻ったようだ。


マモルは必死に体を起こそうとするがまだ力は入らなかった。


辛うじて目を開けることができたのだが、そこで最初に目に入ったのは赤色そのものだった。


多分ここは屋内なのだろう。部屋一面に燃えるような赤が広がっている。


その中心であろう場所に目を向けると、大きな窯があり、その中ではまぶしい炎が轟々と燃え盛っているのが分かった。


一体ここはどこなのだろう・・・。


「お、目ぇ覚めたか、にいちゃん。」


声が聞こえてなんとか振り向くと、そこにはガタイのいい大男が私を覗いていた。


一瞬ぎょっとしたが、すぐにこの人は敵ではないと分かった。その大男の後ろにセイラが見えたからだ。


セイラは部屋の端に置かれたソファーですやすやと眠っていた。


一つ括りにしていた髪はほどかれていて、無防備に眠る姿は今までのセイラとは雰囲気ががらりと変わって、少し色っぽく見えた。


「ああやって眠っていればただの女の子なんだがなぁ。」


マモルの気持ちを見透かしたかのように大男がつぶやいた。


「セイラがあんたをここまで連れてきたんだぜ。」


そうか、ぼくは頭をぶつけて気を失っていたのだ。そしてセイラは私を心配して・・・。

なんて優しい子なんだ。


「まあ、運び方としちゃあ雑だったがな。にいちゃんロープぐるぐる巻きで引きずられてきたんだぜ。あれは笑ったぞ。」


前言撤回。


さっきから背中に違和感があると思ってたんだ。

確認はできないが背中から地面の感触が直に伝わってきている。


というかぼくは仮にもけが人だぞ。それをロープでぐるぐる巻きにして引きずるだと?

セイラに思いやりというものはないのか。


セイラと会ってから、どうしようもなく人間として扱われていない気がしてならなかった。


「自己紹介がまだだったな。おれはガンテツ、ここで鍛冶屋してんだ。」


ここがセイラの言っていた鍛冶屋だったのか。ということはもう町に着いたんだな。


「ぼくはももた・・・マモルです。一応冒険者なんですが・・・。」


「おいおいにいちゃん敬語はやめてくれ。ここじゃあみんな対等だぜ。セイラからいろいろ話は聞いたしな。」


話してみるとやはり気のいい人だった。話し方から優しい感じが伝わってくる。


それからガンテツとはすぐに打ち解けた。いや実際に打ち解けたかどうかは定かではないが、ぼくとしては充分よくやったと思う。


だんだんと体にも力が入るようになって、しばらくガンテツとの雑談を楽しんでいた。


「そしたらセイラが急に怒り出したんだ。まったくひどい。慎みというものが足りないんだ。」


すると突然後ろからぐっと強い力で腕をつかまれた。


まずい、これは・・・。


「誰の慎みが足りないだってー?」


ゆっくりと振り向くと、セイラが鬼の形相でこちらをにらんでいた。


「セ、セイラ。いつから起きてたんだ?」


「お前がわたしへの不満を言い始めた時からだよ!」


グッドタイミング・・・いや、バッドタイミングだ。


またボコボコにされる。


男としては恥ずかしい話だが、その事で頭がいっぱいだった。


だが、ここで思わぬ救世主が現れた。


「セイラ、その辺にしなさい。」


ガンテツだった。このピンチを止めようとしてくれたのだ。


「でもガンテツ!マモルが!」


「セイラ!」


「・・・。」


なんとその一喝でセイラを収めてしまった。セイラは何か言いたげに唇を嚙んでいたが、すぐにソファーにうずくまった。


マモルはなにもされなかったことへの安心よりも、この状況が理解できずに困惑していた。


あのおてんば格闘娘をたった一言で鎮めるなんて・・・。


もしかするとガンテツはセイラよりも恐ろしい人物なんじゃないだろうか。


やはり(ガンテツさん)のほうがいいのか・・・?


ぼくは一抹の不安を覚えた。


「マモル、セイラがすまんかったな。」


「いえいえ。頼りになる時もありましたので。」


その頼りになる時をまだ見ていないのだが。


「セイラは可愛い妹みたいなもんなんだよ。こっちに来て最初に出会ったんだ。まあすぐにバラバラになったんだけどな。」


そうだったのか。知らなかった。


「ガンテツはアビリティーの武器修理も請け負える貴重な鍛冶師なんだ。ここじゃあめったにいないんだからな。」


ソファーにうずくまったままのセイラが籠った声で言った。


どうやらアビリティー武器の修理には専用の特技が必要らしい。それもディズのデメリットのひとつなのだろう。


ガンテツは特技『錬金』と特性『鍛冶神』を持っているので、大抵の武器は直せるらしい。


※特技『錬金』:あらゆる金属を生成できる。ただし生成できる金属の種類は、使用者の熟練度に依存す         る。

 特性『鍛冶神』:金属類の加工能力上昇(大)。武器の基本性能を上昇させる。アビリティー武器の取扱         いが可能。『鍛冶師』の上位特性。



「ちょうどディザスター・クラウンの修理も終わったところだぜ。」


ガンテツがつまようじ形態のディズを持ってくると、それまでソファーに丸まっていたセイラが勢いよく飛びあがってガンテツのほうへ駆けていった。


「それにしても今回は派手に壊したな。エクスカリバーにアイアンメイデン、あとグラディウスまで使ったのか?」


一瞬、何を言っているのかわからなかった。


マモルがキョトンとしていると、


「ディズの形態の正式名称だよ。大剣がエクスカリバー。あの檻がアイアンメイデン。あのいっぱい出てきた剣が・・・ってそれはマモル見てないか。」


なるほど、それぞれに名前があったのか。


じゃあなぜセイラは形態変化の時にはその名前を呼ばないのだろう。


「武器にとって名称はとても大事なんだ。武器にもこころがあってだな。下手な名前つけちまうとすぐにだめになっちまうんだよ。」


「また始まったよ、ガンテツの変な武器理論。名前なんて長いし面倒くさいだけじゃん。」


そんなことだろうと思ったよ。セイラの性格がだんだん分かってきた。


ガンテツはセイラのヤジにすこし不満げだったが、何か思い出したようにマモルのほうを振り返った。


「それにしてもマモルの『絶対防御』ってやつはすげぇな!あのエクスカリバーを折るなんてよ。」


そういえば、セイラから話は聞いていたんだったな。


ぼくはこの特性についてガンテツに相談してみることにした。


「・・・なるほど、まだ自在に使えるってわけじゃないのか。それも同じ特性ならやっぱり実践が一番なんじゃねーかな。」


やはりそうか。もう怖いだのなんだの言ってられないのかもしれないな。


「もし覚悟が決まったら、町の中心に冒険者ギルドがあるからそこで情報をもらえばいい。場所はセイラが知ってる。」


ガンテツがセイラのほうを見ると、セイラはちいさくうなずいた。


「それにお前らカネ持ってねーだろ。」


ギクッ


「心配すんな、今はツケといてやるから。いつでも返しに来い!」


アニキー!


本当に叫びそうになったのを我慢して、ガンテツにお礼を言った。


「あとこれは選別だ。何もないよりはましだろ。」


そう言ってガンテツはマモルに一つの盾をくれた。


「それとお前らここ出たらまず服を買え。マモルは背中が丸出しだ。」


「ほんとだ!ぷっはははは。」


セイラもぼくの背中に気づいたらしく、腹を抱えて笑っている。

まったく、誰のせいだと思っているんだ。


「セイラお前もだ。見るたびに露出が増えてるじゃないか。」


よく言ってくれた。今まで流してはいたが、いつかは言わなければと思っていた。


胸元は開いているし、おへそも見えている。


年頃の若者にとってはそれだけでも凶器となりえるのだ。


「だって、動いたりするのにはこれがベストなんだもん!」


セイラは必死に反論する。


「だとしても、少しは自重しなさい。」


「うう・・・。」


兄貴というよりは母親だな。



マモルとセイラはガンテツに別れを告げ、鍛冶屋を出た。


服を一式そろえ(セイラは渋々だったが)、目指すは町の中心、冒険者ギルドだ。



そしてガンテツから選別として譲り受けた盾が、実は超一級品の業物だったと知るのはずっと後の話である。

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