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冒険スタート!

その2日後にはその「ゲーム機」なるものが送られてきた。


もっと重厚なものだと予想していたが、案外な軽さに拍子抜けした。


乱雑に置かれた雑誌やらいつ食べたか分からないカップ麺の器を手で適当にどかす。


コンセントの周りにはホコリが溜まっていた。掃除なんてここの所ろくにしてない。


箱を乱暴に開け、ゲーム機を取り出して一度コンセントにつないでみた。


そしてまじまじとその機械を見つめ・・・


カチャッ


とりあえず起動。



少し機械音が聞こえてシステムが立ち上がってくるのが分かる。


とその瞬間、異様な光が部屋一体を白く包んだ。


視界から何もかもが消え失せ、意識が遠くなる。



そしてそのまま気を失った。



・・・夢の中で誰かがぼくに聞いてきた。



「あなたは生まれ変わったらどうなりたい?」



そうだな・・・何も望まないから・・・せめて・・・。




顔に強い日差しを感じて、ハッと目を覚ました。



最初に目に入ったのはうっそうとした茂み。木々が連なって奥は暗い陰となっていた。


ここはどこだろう。どこかの山道か?


いやまず、ぼくは自分の部屋にいたのだ。


そしてあのゲーム機を起動して・・・



機械の誤作動?爆発?



ということは・・・ぼくは死んだのか?



だとするとここは天国・・・にしては殺風景過ぎる。


いや天国なんてそもそも自分の想像でしかないが・・・。




そのとき、大きな地響きが聞こえてきた。


地面がぐらぐらと揺れ、足元が少しふらつく。それは段々と大きく強くなってきていた。


ゴゴゴゴッ



何かがこちらに近づいてくる。



あれは・・・。



剣!!?



そう、それはただの剣・・・いや、大剣だった。


数十mはあるかという大剣が地面を真っ二つに割りながら、ものすごいスピードでこちらへ向かってくる。



早くどこかに逃げないとっ。わけのわからない所に飛ばされて早々死ぬのはごめんだ。


辺りを見回してとにかく避けられる場所を探す。



・・・あれ?これもしかしてにげられないんじゃないか?


いったとおりの山道なので、木々や岩はあるにはある。


だがあの見上げるほどの大剣は、目の前にあるものすべてを破壊しながら進んでいるのだ。


木々は木クズとなり、岩でさえも石ころと化している。


すでに辺りには避けられるような場所はどこにもなかった。



なんだ、ゲームオーバーじゃないか。



やっぱりぼくの人生なんてつまらないものだったなあ。


生まれ変わったらもっとましな男に・・・。


そういって、ゆっくりと目を閉じた。



大剣は木々をなぎ倒し、そのまま私に直撃した。



ああ、終わったか。ぼくは今どんなに無惨な姿をしているのだろう。



一瞬だったからか痛みも感じなかったな。ありがたいことだ。


さてこれからどうなること・・・。


「おーい、どうしたーおじさーん。」


なんだ?誰かの声がする


「めー開けろよー。ビビッて死んじまったわけじゃねーだろー。」


またゆっくりと目を開けると、そこには一人の女性が立っていた。


髪は黄金色で、結構な長さなのか後ろで一つ括りをしているらしい。


真っ直ぐに通った鼻筋で、その可憐な姿にまだ少し幼さを残している。


年はぼくより3歳くらい下っぽいな。そして服は・・・



「なにぼーっとしてんだよ、なにもしてないんだからちゃんと意識はあるだろ?」


「あ、ああ。大丈夫だ。」



ふと我に返ったところで、さっきの大剣のことを思い出した。


そういえばぼくはあの大剣で貫かれて・・・


自分の体を何気なく触ってみるが、それらしい傷は見当たらなかった。


なので今度は彼女のほうに目を向け、


「ところで、今ここで大きな剣を見なかったか?」


すると彼女は私の足元を指さした。


「それだよ、そこに落ちてるやつ。」


「は?」


足元に目を落とすと、そこには確かに何かが落ちていた。


サイズはつまようじくらいか。拾い上げてみると、あの大剣と同じ形だった。


いかにも不思議そうな顔をしてまた彼女を見た。



「だーかーらー、それがおじさんがビビッてた大剣なの!」




・・・訳が分からない。これがさっきの化け物だって?

   ありえない。こんなのただのミニチュアかそれか・・・つまようじだ!


 それにぼくはビビッてはいない。  


・・・仮にビビっていたとしてもそれは一般に普通な反応なのだ。


第一こんな異常事態で冷静でいられるわけが・・・



「あー、わかったよ。いいからそれ貸して。そんで離れて見てて。」



そう言って彼女はマモルから半ば強引にそのつまようじを奪い取った。


そしてその手を空に向かって高く掲げると



「ディズ、第一形態。」



彼女が何か言ったかと思った瞬間、彼女の手、いやその手に持ったつまようじが突然光り出し、次の瞬間にはあの見上げるほどの大剣へと姿を変えた。



マモルは驚きのあまり、口を大きく開けたままその大剣を見上げていた。


今にも叫びだしそうになった時、先に大声を上げたのは彼女のほうだった。



「あーーーーー!!」



どうしたのかと真っ青な顔をして驚いている彼女が見ている方向に目を向けると、その原因はすぐに分かった。


空も裂けそうなほど頑強で巨大な大剣。その矛先は見るも無残に折れてしまっていた。



彼女は今度は恐ろしい顔をして、



「これお前がやったんだろ!危ないと思ってアビリティー解除してやったのに、攻撃するなんて信じられない!」



どうやら壮大な勘違いをしているらしい。あの状況で攻撃なんて、選択肢にもなかったよ。人生あきらめてたんだぞ。


それに気になることもある。



「おいおい誤解だよ。だいたいその『アビリティー』ってなんだ?」



そう言うと彼女は呆れ顔になった。



「おじさんもテスターだろ?アビリティーも知らねーのか?」



確かにぼくは『テスター』としてあのゲームを起動した。ということはここはゲームの中で、無事に始められたということか?


もしかすると彼女も同じテスターで・・・ならなぜ彼女だけがそんな情報を知っているんだ?



「おじさん、ちゃんと説明会聞いてなかったのか?」



なるほど、すべて理解した。


どうやらぼくが右から左に聞き流していたあの説明会ですべて説明されていたようだ。



「ま、アビリティーも知らないんじゃわたしのディズは壊せないか。」



「ディズってその大剣のことか?」



「そう!『神剣ディザスター・クラウン』略してディズだ!」


「一応これがわたしのアビリティー。効果はさっき見せた通りなんだけど、ディズはあと3形態。巨大化を含めて第4形態まであるんだぜー!」



そんな。あんな恐ろしい能力があと4つもあるなんて・・・。考えただけでも身震いがする。


だが、自分だけの能力か。あまり悪い気はしないな。


テスターである彼女がその能力を持っているのなら、ぼくにも何かしらの能力に目覚めていても不思議ではないはず。


「そのアビリティーとやらはどうやったらわかるんだ?」



「『チェックオン』って言えば自分のステータスが出てくるから。」



試しに言ってみると、視界の中に文字がみえるようになった。


そうだ、ここはゲームの世界なんだ。これくらいのことで驚いていてはいけない。


何度も言うがぼくはこの手のRPGはすべてやり尽くしてきたつもりだ。

なにせ時間はたっぷりあったからな。



「で、文字が出てきたらその『アビリティー一覧』ってところを見れば自分のアビリティーが分かるぜ。」


「ちなみにステータスはほかの人には見えなくなってるからな。」



なるほど、確かに見られては困るものもあるからな。


さて、一体どんなアビリティーなのだろう。どうせならかっこいいものがいいな。だが機能性も捨てがたい。


まあ最悪どんなアビリティーになったとしても使いこなしてやるさ。


そう思いながら『アビリティー一覧』を覗いた。


・・・。



「そんで中にはアビリティーを複数持ってる奴もいるらしいぜー。まあわたしはディズだけで充分だけどな!」


「ってどうしたおじさん、顔が真っ青だぜ。」



「・・ない。」



「・・・え?」



「なにも書いてないんだ!」


まったくの空欄。空白。きれいなまでにそこにはなにも書いてはいなかった。



「そんなわけねえよ、アビリティーはその人の現実での性格や思いに依存してる。それに願いならゲームが始まるときにちゃんと聞かれただろ。」



・・・ああ、確かに聞かれた。そしてぼくは確か<何もいらないから・・・>と答えた。


あれはアビリティーへの要望調査だったのか。そうとも知らずにぼくは・・・


「ぷっ、くくくくっ・・・。」


ん、なんだ?


「あはははは。だめだおかしいっ。」


彼女はマモルを見て腹を抱えて笑っていた。結んだ黄金色の髪が小刻みに揺れる。


まったく。ぼくはいま悔やんでも悔やみきれない思いでいるというのに、少し位同情の念はないのだろうか。


「ごめんごめん、アビリティーがゼロの人なんて聞いたことなかったから。」


「あー久しぶりにこんなに笑った。気に入ったぜおじさん!わたしはセイラ!おじさんの名前は?」



「ぼくは百武(ももたけ) (まもる)だ。」


するとまたセイラは笑い始めた。


「あはははは。おじさん、ここで本名使う人なんていないよ。」


それを先に聞きたかった。考えてみればすぐわかることだが。


「それじゃあよろしくね。マモルおじさん!」


「ひとつ言っていいか?」


「なに?」


「おじさんなんて年じゃない。ぼくはまだ25歳だ。」


「え?25歳っておじさんじゃないのか?」



今の子たちからすれば25歳はもうおじさんなのか・・・。



「じ、冗談だよマモル!ちょっとしゃべり方がおじさんっぽかったってだけさ。」



グサグサ来てるよセイラ。セイラのアビリティーがディズな理由が少しわかった気がする。



「さてと、まずはわたしの折れたディズの修理だな。この先に有名な鍛冶屋があるんだよ。」



アビリティーにも修理がいるんだなあ。というかあれを直せる鍛冶屋がいるのか?


少し興味もあったので、とりあえずセイラに同行することにした。



「ところでマモル。ステータスにはもう変わったとこはなかったか?」



もう一度、ステータスを確認する。



「あとは『特性・特技』ぐらいだ。」


「ああ、わたしもあるよ。『勇敢』と『剣士』、あとは『高速』かな。」


※特性『勇敢』:ひるまない、かばうなどを発動できる。勇者の基本特性。

 特性『剣士』:剣技の威力上昇(小)。剣の重量無効化。二刀流も可能になる剣聖の基本特性。

 特性『高速』:基礎スピード上昇。回避率上昇。神速の基本特性。



なんだそれは、名前からしてかっこいいじゃないか。ぼくが女だったら危うく惚れそうになるかもしれない。


「それでマモルのは?」


「ああ、えっと『仲間を呼ぶ』と『協力』と・・・なんだこれ、『自爆』!?」


※特技『仲間を呼ぶ』:離れた仲間を呼ぶ。ただしパーティー内の仲間に限る。

 特性『協力』:連携がうまくなる。補助系の技の効果上昇(小)。???の基本特性。

 特技『自爆』:瀕死になると周りを巻き込んで自爆できる。


「ぷっ自爆って・・・。」


セイラは噴き出すのを必死にこらえている。


ホントに笑える。仲間を呼ぶ。協力。今まで無縁だったものばかりだ。


だからこそという事なのだろうか。


ゲームにまで励まされているようであまりいい気はしなかった。


「あとは『絶対防御』だ。」


また笑いをこらえているのかとセイラのほうを見たが、彼女はまるでキョトンとしていた。



「わたしそんな特性知らない。色々調べ上げたつもりだったのに。」



どういうことだ?セイラの知らない特性なんて。ただの調べ漏れか?


なんとなく詳細を読んでみる。



「特性『絶対防御』:物理、特殊攻撃をはじく。または等倍のダメージを返す。守護戦士の基本特性。だって。どう思うセイラ・・・あれ、セイラ?」



セイラは下を向き、小刻みに震えている。



「また笑いをこらえているのか、セイラ・・・さん?」


「・・・やっぱりお前だったのか。」


「へ?」


「わたしのディズを折った犯人はお前かーー!」



このあと、怒ったセイラによる仕返し、もとい拷問を受けるのは次の話。


何はともあれ、これがぼくの冒険スタートである。

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