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帰還と再会


「そこは前に出る!後ろに下がっちゃ攻撃に耐えられないぞ。」


「違う!そこは身をそらして衝撃を受け流すんだってば。」


今、ぼくはセイラの鬼指導を受けているところだ。


仕方ないじゃないか、今はセイラしか指導をつけてくれる人がいないんだから。


といってもこれは攻撃の指導ではない。


一応普通の装備を使えば攻撃も出来ないことはないのだが、セイラがぼくの身体能力諸々を見て、攻撃は向かないと判断したのだ。


そういう訳で、今は相手の攻撃を防ぐ特訓をしている。


セイラの判断は少々心外ではあったが、ぼくの性格上、ガンガン前に出るタイプでもないので的確な判断といえるだろう。


セイラはもちろん真剣は使わずに木刀を持ち、にもかかわらずぼくは大層にガンテツからもらった盾を使っていた。


たとえ木刀だとしても、セイラなら致命傷を与えるくらいは出来そうだと怯えていたからだ。


改めてセイラと真っ正面から対峙すると、その剣さばきのすごさが伝わってくる。


手加減はしてくれているようだが、少しでもぼくの重心が崩れると正確に間合いを詰めてきて、今にも懐へ飛び込んでくるんじゃないかという程の迫力だった。


その動きに半分目を回しそうになりながら、必死にセイラの攻撃を盾で防ぎに行った。


何度か体に木刀が当たり、そのたびにセイラは笑みを浮かべながら1、2、3とその回数を数えてマモルをからかっている。


まったく良い性格してるよ・・・。



しばらくして、だんだん慣れてきたな、と思い始めた時、セイラの動きに翻弄され足が絡まった。


そのまま態勢を崩し、マモルは地面にしりもちをついた。


「うわっ。」


ちょうどセイラも木刀を振り下ろしている所で、倒れそうなマモルの頭をめがけて木刀が迫ってくる。


まずい、頭なんて致命傷も致命傷。死んでもおかしくないぞ。


分かってはいるが倒れかかっている体は言う事を聞かない。


セイラもまずい、といった表情をしているが木刀を止めるには時すでに遅し。


怖い。


死にたくない。


そう思って強く目を閉じた。


木刀が脳天を叩こうとした時、突然青い光が発生し額に集まり、それに触れた木刀はセイラの手を離れて後方に吹き飛んだ。


木刀は回転しながら放物線を描き、地面に軽い音を立てて落ちた。それは一瞬の出来事だった。


「マモル、これだ!」


何が起こっているのか分からず目を開けると、目の前でセイラが笑顔を見せ、視線はマモルの額の方に向いていた。


おもむろに自身の額をさする。


またぼくは死にかけたのだ。セイラよ、お願いだから先に労りの言葉をかけてくれ。


それよりこの青い光、見た限りでは前と同じものだ。


「またできたのか・・・。」


額からゆっくりと青い光が消えていくのを目の隅で確認しながら、今の感覚を思い出す。


さっきぼくは、怖い、死にたくないと心の中で思った。


いままでも何かしらの命の危機に際してこの『絶対防御』は発動した。


という事は死を予感することで発動するのか?


いやでもキルギスとの戦いのときは少し違った気がする。


あの時は確かにやられそうにはなったが死ぬのが嫌だというよりも、セイラを助けられないという気持ちのほうが強かった。


気持ちか・・・。


「セイラはディズを使う時に何か思ったりしているのか?」


「そりゃあ大きくなれーだとかたくさん増えろーだとかは思ってるよ?」


思い方が軽いなっ。


「要は気持ちが強ければいいんだよ。大事なのはハートだ!」


単純だがセイラの言っている事は間違いではないらしい。


死への恐怖感ほど強い感情はないからな。


ということは、気持ちのコントロールさえ出来ればぼくにも使いこなせるのだろうか。


もちろん、気持ちのコントロールはそんな簡単な事ではないことは分かっている。


何せ死の恐怖感と同じ程の強い感情を故意に出そうというのだから、当たり前だ。


だが希望が見えたことには違いない。


「よし、続けようセイラ!」


そう言ってぼくは体を起こして砂ぼこりを払い、盾を構え直してセイラを促した。


これまでになく張り切っていた。暗闇で一筋の光を見つけたような気持ちだ。もしくは未知の領域に踏み込む探検家のような気持ち。


これが成長するという事か。いよいよRPGらしくなってきたじゃないか。


そうだ、今日がぼくの冒険の書、始まりの日だったのだ。


そんな事を思っていると、後ろでけだるそうな声が聞こえた。


「退屈なのー、二人だけで遊んでずるいの。わたしも遊びたいのー!」


訓練場の客席でマリアが体を左右に揺らしながら駄々をこねていた。


ぼく達は別に遊んでいるわけでは無いのだが・・・。


そういえば特訓に夢中でマリアには構ってやれていなかったな。


「わたしお腹空いたー。」


今度はセイラがごね始めた。


君たちちょっと勝手過ぎじゃないか?


いやぼくも特訓に付き合ってもらっているんだから言える立場ではないか。


「じゃあとりあえず昼ご飯にしてその後でマリアも含めて特訓の続きをしようか。」


「はーい!」


二人は声を合わせて大きな返事をした。


確かギルドの中に食事スペースもあったはずだ。最初ここに来た時に目に入ったので覚えている。


それにしてもゲームの中でもお腹が空くなんて不思議だ。娯楽としての食事としてならあり得るが、実際にぼくも空腹を感じているのだ。


まだまだこの世界は知らないことばかりだな。


そんな事を考えながら、ぼく達は例の小部屋でギルド上層まで戻った。



時間も時間で、他の冒険者は少ないだろうと踏んでいたのだが、そんな予想とは裏腹にギルドは異様な熱気を帯びていた。


「な、なんだ?」


内部には人が大勢詰めかけ、そこかしこから歓声がこだましている。


隙間の無いくらいに押し掛けた人だかりは、マモル達に対するものとは真逆な尊敬の眼差しをギルドの中心へ向けていた。


その群衆に取り囲まれるようにして立っていたのは堂々たる姿をした数人の冒険者たちだった。


全員が立派な武装をしており、いかにも強者といった佇まいだ。


しかし、この盛り上がり様はなかなかの有名な人達なのだろう。まあ私は知らないが・・・。


「セイラ、あれは一体誰なんだ?」


「・・・。」


セイラはマモルの質問にも答えず、黙って俯いている。


「セイラ?」


「選抜隊の主力メンバーたちなの!」


マリアがセイラの代わりに威勢よく答えた。彼らの顔を見たいのか、ひたすらその場でジャンプを続けている。


選抜隊・・・確か昔セイラがいた所だったか。


周りの反応を見る限り市民からは相当な信頼を得ているらしい。


ここは勇者連合の領地で、彼らはその代表なのだから当然ではあるのだが、ぼくは何となく気に入らない。


ひねくれていると言われれば否定は出来ないが、皆の祝福、歓喜の輪の中でも一切表情を変えず、冷静といえば聞こえはいいがその無愛想な態度がどうにも食えない。


渋い顔をして眺めていると、選抜隊の一人であろう女性とうっかり目が合ってしまった。


あちらも不穏な視線を感じ取ったらしく、女性らしい顔つきからは想像も出来ないほどの眼光でにらみ返してきた。


やばいっ。


マモルの防衛反応が咄嗟に彼女から目をそらさせる。


まるで猛獣に襲われる前の草食動物のような気分だ。


全神経を集中させて彼女の状況を確認した。


どうだ、ギリギリセーフか?


彼女の動向を探るためにゆっくりと首を元に戻す。


すると彼女は他の仲間と何か話した後、なんと全員でこちらに向かってきた。


完全に終わった。


そう思ってマモルは全身をこわばらせた。

 

選抜隊が目の前まで来た時、リーダーらしい筋骨隆々の男が太い声で言った。


「君たちが魔王連合と一戦交えたという者たちか。」


「そうなのっ。」


一人で固まっているぼくをよそに、マリアがその彼を見上げて答えた。


マリア、頼むから今は余計な事を言わないでくれ。


そう言いたげにマリアに視線を送るが、まったく伝わっていないようだ。


男がそれを聞いてくるとは、やはり魔王連合との一件は彼らにとって不都合なことだったのか。


男がどんな険悪な表情をしているかと、ちらっと顔を覗く。


だが男は鬼の形相とは真逆の、にこやかな顔で言った。


「いやあそれはすばらしい!あの魔王連合と会いまみえて無事とは、なかなかの手練れのようだ。」


「すまない、紹介が遅れた、俺は勇者連合の選抜隊[ブレイブハーツ]リーダーのレツだ。よろしく!」


そう言ってこれまた太い手を差し出してきた。


「マモルです、よろしく。」


マモルは差し出された手を非力な手で握った。


何とも礼儀正しいじゃないか。なんだ、案外いい人なのかもしれない。


少し警戒を解こうとしていた時、先ほどの彼女が会話に割って入ってきた。


「そうじゃないだろレツ、こいつらが魔王連合を刺激しちまったからこっちは大変なんだってことだろうがよ。」


彼女のほうは怒りの表情だ。


すると彼女はぼくではなく、後ろでめずらしく静かにしているセイラに視線を向けて言った。


「ようセイラ、よくもわたしたちの前に顔出せたよな。」


「・・・。」


セイラは彼女の問いかけにも答えない。


それをいいことに、彼女はセイラを更にけしかける。


「どうしてるかと思えば、こんなちんけな奴らとつるんでたのか。随分のんきなことだな。」


するとセイラはギロっと彼女を睨み返して、怖い顔をした。


互いに睨み合ったままで、今にも殴り合いの喧嘩になりそうな雰囲気だった。



「おい、イヴ、その辺にしないか。」


空気を察してか団長のレツが仲裁に入る。


「今日は喧嘩を売りに来たんじゃないんだ。イブも分かってるだろ。」


そう言われて、彼女、イヴはチッと軽く舌打ちをして、不満の表情を見せながらも黙って引き下がった。


そしてレツはセイラの方に向き直って、改まった感じで話し始めた。


「今日はセイラに話があって来たんだ。」


「セイラ、もう一度選抜隊に戻ってきてくれないか?」


「え?」


一瞬周りが静まり返った。


マモルはその提案に戸惑いを隠せないでいた。


レツは周りを他所に話を続ける。


「実は今、勇者連合はかなり劣勢に立たされている。魔王連合の力が強くなっているのだ。」


「正直、このままでは次の攻撃に勇者連合が耐えうる見込みはかなり低い。だから今は少しでも戦力が欲しい。」


そう言いい終わった後、なんとレツはセイラに頭を下げた。


周りの民衆はその事態にザワザワし始める。


仮にも勇者連合の代表である選抜隊のリーダーであろう人が頭を下げたのだ。


何も知らない民衆が驚くのも無理はない。


後ろのイヴもレツを見て呆れた表情でいる。


マモルは内心迷っていた。

勇者連合の今の状況を考えると、セイラのような強者は大事な戦力だ。行かないわけには行かないだろう。


そうしなければいけない。


……いけないのだが。


同時にセイラに行って欲しくないという思いもあった。


利己的だという事は分かっている。


一国の運命と自分の我儘とを天秤にかけることがどれだけおかしな事かも知っている。


ただどうしても、セイラが居なくなることを受け入れることが出来なかった。


マモルはセイラをチラリと見る。


するとようやくセイラが口を開いた。


「わたしは行かない。ここに残るよ。」


その言葉を聞いた全員が目を丸くした。


誰一人として騒ぐこともなく、ただひたすらにポカーンとしているだけだった。


みんなが状況を整理できずにいた時、後ろに控えていたイヴが突然前にでた。


セイラの目の前まで来ると、セイラの胸ぐらを掴み、そのまま引き寄せて、今までに無いほどの剣幕でセイラを睨んだ。


「てめぇ今の話聞いてなかったのか?もうお前のワガママに付き合ってる暇はねーんだよ!」


「あの時のこと、忘れた訳じゃねーよな。自分のしりぬぐいぐらい自分でしろよ!」


「これはお願いじゃない、命令なんだよ。」


威圧するような強い口調で、言い終わるとイヴはセイラを突き離した。



しばらくの沈黙が続く。


そしてレツがその沈黙を破って口を開いた。


「すまない、話が突然すぎたみたいだな。また後日伺うことにするよ。」


「その時までに今の話、考えておいてくれ。」


そう言うと、未だに興奮気味のイヴをなだめつつ、[ブレイブウイング]の一行を引き連れて、ギルドを出ていってしまった。


すると民衆も押し流されるようにギルドを去っていき、残ったのはマモル達3人だけになった。


気まずい沈黙が続く。


「・・・ぼくたちも戻るか。」


もう特訓を続ける気分では無くなり、マモル達も一旦宿に引き上げることにした。



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