夢〜夕暮〜
タイトル通り「夢」です。
『おかえりなさい。』
・・・・・台所に響く、包丁の音。
カタカタ鳴っている蓋の音。
心地良い生活音で私は目を覚ました。
髪を結い上げ着物に割烹着を着た女性が、こちらを振り向くことなく夕飯の支度をしている。
私は眠り足りない体をゆっくりとおこして、あたりを見渡した。
そよそよと心地の良い風が頬を撫でてゆく。。
木々や草が優しく傾く。。。
太陽は西に大きく傾き、空を橙色に鈍く鮮やかに染め、ガラスのない木枠の窓から家の中へとその光の手を伸ばしていた。
ここには生きていくのに十分と思われるものはそろっていた。
居心地の良い、懐かしい場所がそこにあった。
どこかなんてわからないけれども、ここは私にとって大事な場所だ。
私のすべてをを優しく包んでくれる。
ここに来るたびに、全身ぬるま湯に浸かっているような気持ちになる。
「ねぇ・・・・」
その女性に手を伸ばした瞬間だった・・・・・・・。
私はいつも通りの真っ暗な部屋の中に一人いた。
涙が出る。ただただ、涙が出る。
理由なんてわからない。
私が日々生きている日常は重苦しく、冷たく、辛い。
時々押しつぶされそうになる。
お願いします。また、あの場所へ行かせてください。
私はまたゆっくり瞼を閉じる。
毎回、行けるわけではない。
あの場所へ行けるときには眠りに落ちる瞬間に、いつも決まって優しい手が自分に向かっておりてくる。。。
温かい手だ。怖さを感じたことなど一度もない。
その手は母のような祖父母のような、誰かははっきりわからないが、でもすごく昔から知っている人のような手だ。
私は子供のように、迷子になるまいとひしとその手に掴まる。
その手に掴まると、部屋の天井を一気に通り抜け私の体は高く高く、空に向かってあがっていく。
夜の風を感じながら夜景を見下ろす瞬間に、私の体は虹色の光に包まれる。
そしてキラキラ輝くトンネルを通り、空間を一気に飛び越えるような感覚を味わうのだ。
『おかえりなさい。』
(ただいま。。。)
そうしてまた私は夢を見る。