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美少女が死にたくない理由  作者: 藍木 青
7/15

お弁当

「ねえねえ芽花、今日は私も自分で作ってきたよ」

 昨日はパンだった咲日が、可愛らしいランチクロスに包まれたお弁当を机の上に出して、満面の笑顔で机をこちらに向けてきた。

 そんな、もう一緒に食べる気満々の咲日に、「1人で食べてみたらどうなるだろう?」などという好奇心を優先させるほど、あたしは薄情にはなれなかった。

「へえ、じゃあ交換しようか。お手並み拝見だ」

 あたしも咲日に机を向けてくっつける。

「なになに? 友坂さん、手作り弁当なの?」

 浜西が横から口を挟んできた。

「ええ」

 咲日が恥ずかしそうに頷くと、

「おぉ、すげぇ」

 なにがすごいのやら。

 あたしも手作りのお弁当なのだが、咲日しか目に入っていないようだ。別にいいけど……。

「あ、そうだ、せっかく近くの席になったんだし、一緒に食べようよ?」

 さらに強引に話しを進めてくる。

 咲日のおかずを狙っているのが見え見えなのだが──。

「いいわよ」

 咲日ってば、速攻で快く了承するし……。

 すぐにハッとなって「勝手に決めてごめんなさい」とでも言いたげな目を向けてくる。

 あたしは「仕方ないなぁ」という表情を作り、軽く肩をすくめてみせる。

 ここまでは小説通りだ。

 さすがに完全一致とはいかないし、セリフなどは全然違うが、展開というか流れ的には同じ感じだ。

 流れに逆らって浜西を拒否することもできたのだが、どうせここまできてしまったわけだし、それなら先の展開も期待──もとい、気になるというか……。

「ほら、買ってきたぞ」

 ジャンケンに負けて買い出しに行っていた三浦くんが戻ってきた。

「お、サンキュー」

 パンとブラックコーヒーの缶を受け取った浜西は、

「今日は教室で食うべ」

 芸人か何かを真似ているのだろうか? たまに変ななまりを使う。

「なんだ珍しいな」

「いやさ、転校してきたばかりの友坂さんと親睦を深めようと思って」

 あたしはおまけ──という感は否めないけど、そこはあえて追求しないでおく。

 三浦くんを誘う大役さえ果たしてくれればそれでいい。

「オレは別にかまわないけど──」

 それから三浦くんは、あたしたちに顔を向け、

「いいの?」

「「どうぞ」」

 あたしと咲日の声が綺麗にハモった。

「じゃあ、お邪魔します」

 ちゃんと断っておいてから机を向けるあたり、どこかの誰かとは大違いだった。

 あたしは心臓のドキドキを気づかれないように、なに食わない顔でお弁当を広げる。

 いつもはご飯も一緒に入れてくるお弁当箱が、今日はとにかく種類が多い上に千萌がつめたので、おかずだけに占領されている。

 ご飯は別に小ぶりのおにぎりが2つ。

 果たして、食べきれるだろうか?

「あれ、坂本さん、今日はいつもより気合い入ってるね、弁当──」

 三浦くんの言葉に頭が沸騰した。

 大食いに思われたのでは──そんな心配をして恥ずかしくなったのではない。

 「いつもより」という言葉に反応してしまったのだ。

 つまり、それは、いつもお弁当を、しっかり見られているということで──。

 恥ずかしさの中に、何ともいえない嬉しさが混ざっている。

「あ、えっと、その、妹のお弁当のついでというか、なんか、すごくリクエスト多くて……」

「へぇ、坂本さん、妹さんの分もお弁当も作ってるんだ?」

「いや、あの、今日だけ。写生大会で、お弁当持ちだったから。それに、妹も切ったりとか揚げたりとかしたし、あたしが全部やったわけでもないというか──」

「妹さんと仲いいんだ」

「別にそれほどといいわけじゃ──あ、でも、悪いわけでもなくて、普通というか……」

 頭の中が真っ白で、もう何を言っているのかもわからず、なかなか話しがまとめられない。

「と、とにかく、たくさんで食べきれないから、よかったらつまんで」

 苦し紛れに、むりやり話しを締めくくった。

「ほんと? じゃ、遠慮なく──」

 「いただきます」と手を合わせ、卵焼きに刺さったピックを摘まむ。

 心臓が大きく跳ね上がった。

 真っ先に、ピンクのハートの形をしたそれを選んだ意味は──。

 いやいや、もちろん、卵焼きが一番好きだから──というのはわかっている。

 でも、なんだろう、この幸せ過ぎる展開は。

「うん、うまい! やっぱ坂本さんの卵焼きは最高だよ」

 ひゃぁあ、顔が熱いぃ。溶けちゃう~。

「はっ!?」

 気がつくと、そこには咲日の意味深な笑みがあった。

「ほ、ほら、咲日も食べて食べて」

 あたしは慌ててお弁当へと注意を促す。

「うん、ありがと。私のも食べてね」

「おぉ、やったぁ、ごっそさーん」

 話しの流れからして、咲日はあたしに言ったのだが──。

「うっひゃぁ、うっまぁーっ!」

 そんなことも、あたしの冷たい視線攻撃もお構いなしの浜西。

 これだけ図々しいにも関わらず、不思議と憎めず逆に笑えてくるのは、ある種の才能かもしれない。

 かくして、今まで感じたことがないくらい楽しく、そして幸せなお昼の時間は、あっという間に過ぎていったのだった。

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