劣等感
夕食──。
母とあたし、そして妹──千萌との3人。
正直、あまり食欲がないのだけど、無理をして呑み込んだ。
食べなければ母が心配する。
余計な心配をかけたくない──というのは表向きで、なんというか、学校であんなことをされている自分を知られたくないという、変なプライドのようなモノが働いている。
母だけじゃない、千萌に対してだって姉としての面子があるというか──。
いや、面子なんて、とっくに破綻しているか。
なにせ、いろいろなところで千萌には負けているのだから。
あたしが地味で暗くて目立たず社交性ゼロのメガネブスに対し、千萌は明るくオシャレで友達もたくさんいて、アイドルオーディションなんて余裕で受かりそうなほどの美少女だ。
しかも、中学2年生にして彼氏だっている。
きっとあたしは母の中にいろいろと置き忘れてしまったのだ。
そして千萌はしっかりちゃっかりそれらを全て回収して生まれてきた。
あたしが勝てることといったら、料理くらいしか思い浮かばない。
それも、単に今まで千萌にやる気がなかったというだけで、あたし自身の腕前はごくごく当たり前の普通レベルだ。
「お母さん、お弁当ぜーったい、ぜーーーったい、忘れないでよね」
「はいはい、わかってるから、なるべく早く作るもの決めてちょうだいね。当日になって言われたって材料とか準備できないわよ」
ところがここにきて、千萌にとうとう「やる気」が芽生えてしまった。
あさって、千萌の通う中学では全校あげての写生大会が行われる。
朝から放課後の時間まで、絵を描くために学校の敷地を出ることになる。よって給食は休みで、代わりにお弁当を持参することになっていた。
そしてそのお弁当を、彼氏の分も作っていくと約束したらしいのだ。料理などしたことがない千萌が。
そこで母の出番ということらしい。
教えてもらいながら作るという。
ぶっつけ本番で。
すごい度胸だと感心してしまう。
あたしだったら絶対に無理だ。失敗したらどうしよう──とすぐ考えてしまう。
しかし千萌は勘が良く器用で、どんなことでも、ちょっと教わっただけで完璧にやってのける。
だから初挑戦だろうと失敗を恐れないし、その心配もほとんど必要ないだろう。
そして、その1度があれば、余裕であたしの料理レベルに追いついてくるのだ。
下手をすると、追い越されてしまうかもしれない。
そうなったら、あたしが勝てるモノが何一つなくなってしまう。
喉を通ろうとする食事を、ため息が押し返す。
「ごちそうさま……」
よそったごはんだけはなんとか食べきり、あたしは席を立った。
「あら、もういいの?」
「うん」
無理して笑顔を作って見せ、食器を洗う。
自分の部屋に入って、真っ直ぐベッドに向かい、そのまま倒れ込む。
ごろんと仰向けになり、目を閉じた。
はあ、このまま眠って、それっきりもう2度と目が覚めなければいいのに……。
痛くもなく苦しくもなく、眠るように死にたい……。
自殺する度胸もないくせに楽に死ぬことばかりを考えるダメ人間……。
ほんと自分が嫌になる……。
そしてあたしは、あの夢を見た。