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美少女が死にたくない理由  作者: 藍木 青
14/15

抵抗

 集合場所のハンバーガーショップは、祝日の──しかも、そこそこ早い時間帯ということもあってガラガラだった。

 そんな中、咲日と三浦くんは、注文した飲み物が既に半分ほどになっていた。

 いちおう、あたしも5分前行動をしているのだが、二人はいつも早すぎる。

「哲平は寝坊して今家を出たところらしいから、先に始めよう」

 それもいつものことなので、今さら呆れる気にもならない。

 二人にことわって先に飲み物を買ってきてから、咲日の隣に座ると、

「小説、読ませてもらったよ」

 三浦くんがそう切り出した。

 こういう状況でなかったら、嬉しい言葉なのだが……。

「どうやら、2つのパターンがあるようだね」

「2つ?」

 いきなりの分析結果に、あたしは首をかしげる。

「実際に起こったことを小説にしたパターンと、小説に書いたことが現実になったパターン」

「正解!」

 思わず叫んでしまい、慌てて口を押さえると、

「さすが三浦くん、すごいね」

 声を抑えて付け足す。

「いや、たまたま実体験と小説とのズレが大きい時と小さい時があることに気づいて、もしかしたらって思っただけなんだ」

 少し恥ずかしそうに謙遜する三浦くん。

「実際に起こったことを小説にしたのは、日記みたいなものだから置いておくとして、問題は小説が現実になったパターンだ」

 あたしは小さく頷くと、咲日に改めて「ごめん」と謝る。

 電話ではたくさん謝ったけど、直接はこれが初めてだ。

「だから、もういいってば」

 咲日が苦笑する。

「良くないよ、あたしのせいで咲日が──」

「それなんだけど」

 三浦くんがあたしの言葉を遮った。

「坂本さんは、小説に書いたから現実になったと思っているみたいだけど、実際は逆じゃないかな? 起こる未来を無意識に予知して小説を書いているんじゃないかと思うんだ」

「あたしもそれは考えたんだけど、強制力というものがあって、わざと小説と違う行動をしても戻されてしまうの。予言とか予知だったら、そんな変な力は働かないんじゃない?」

「いや、そうとも限らないよ。その『違う行動』も含めて予言ということもある」

 妙に強く言い切る三浦くんを見て、あたしはふと思った。

 もしかすると、あたしの罪の意識を和らげようとしてくれているのではないだろうか?

 優しいんだ、三浦くんてば……。

「そうね、そうかもしれない」

 せっかくの三浦くんの厚意を受け入れることにした。

「そこで本題なんだけど──」

 そう言っておいてから三浦くんは、アイスコーヒーで喉を湿らせ続ける。

「小説の最後の部分は、これから起こるバスの事故を予言したものだと思うんだ。仮にオレ達がバスに乗らなかったとしても、乗るはずだったバスが事故を起こすかもしれない。あるいは、別の日にバスに乗ったら──という可能性もある」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「被害を最小限に抑える」

「「最小限に抑える?!」」

 あたしと咲日の声が綺麗にハモった。

「どうやって?」

 咲日が問いかけた。

「まず、オレと友坂さんは、できるだけ小説通りに行動する。

 小説の待ち合わせ時間と同じ9時半にここを出てバス停に行き、街に行くバスに乗る。

 9時40分のバスがあるから、たぶんそれになるかな」

「どうして?」

 これはあたしの問いかけ。

「あまり小説と違う行動をしてしまうと、坂本さんのいうところの『強制力』が働いて、事故のタイミングが狂ってしまうかもしれないから」

 「事故のタイミング」とか、なんか聞き方によっては、とんでもない悪事の計画を立てているみたいだ。

 などと内心苦笑しながらも、

「あたしはどうすればいいの?」

「哲平がバイクで来るから、一緒に先回りをして、バスに乗らないように説得してほしい。オレ達だけになれるのがベストなんだけど──」

「あたしもバスに乗る」

「いや、それは危ないからだからダメだ」

「危ないのは三浦くんも咲日も同じでしょう」

「オレはかすり傷で済むから大丈夫だよ。

 ──というか、それを利用しようってことなんだけど」

「どういうこと?」

「かすり傷で済むということは、オレの周りは安全圏てことだろう? なら、密着して絶対に離れなければ、友坂さんも助かるかもしれない」

「「密着ぅ?!」」

 再びあたしと咲日の声がハモった。

 今回のハモりは驚くほど大きく、周りからの視線が痛い。

 あたし達は「すみません」と視線の1つ1つに頭を下げる。

「密着ってことは、バスの中で抱き合うの?」

 さすがに咲日の色白な頬も、ほんのり桜色に染まっていた。

「そうだね、お互いに強く抱きしめていたほうが、確実かもしれない。

 衝撃とかがあれば飛ばされる可能性もあるし、それで離れてしまったら元も子もない。

 まあ、ほかにも、方法は考えてあるけど──。

 とにかく、暑苦しいかもしれないけど、シートベルトか何かだと思って我慢してもらいたい」

 いやいやいや、そういう意味じゃなくて──。

 三浦くんも、なんとか咲日を助けようと、とにかく必死なのだろう。

 だから普段はこんな天然さんじゃないし、もちろん邪な考えを抱いているわけでもないのはわかっている。

 わかっているけどぉ!

「そもそも、そんなことで本当に大丈夫なの? 逆に巻き添えをに遭う可能性も考えられるんじゃない?」

「その時はその時だ」

「だったら、やっぱりあたしも乗る。あたしも小説では連絡を受ける役目があるから、安全圏のはずだもの。

 左右から咲日に密着すれば、安全圏でガードできるし、助かる可能性も2倍──ううん、1対2で助かる方が勝つかもしれない」

 三浦くんがじっとあたしを見つめる。

 あたしは意志を変えるつもりはなかった。

「わかった」

 真剣な面持ちで頷く三浦くん。

「いやぁ、わりぃわりぃ」

 ちょうどそこに、口先だけで悪びれた様子のない浜西が到着した。

「ロープってこれでいいのか?」

 浜西がロープを三浦くんの前に置いた。

「ああ、サンキュー」

 三浦くんが言い終わる前に、

「俺もなんか買ってくらぁ」

 そう言って行ってしまった。

「もしかして、それで?」

 あたしが顔を引きつらせると、

「うん、オレと友坂さんをこれで結ぶ」

「えー、そこまでするのぉ?」

 咲日も顔を引きつらせた。

 「なんか、犯人の移送みたい」と喉まで出かけたが、さすがにそれは呑み込む。

「あたしも?」

「いや、とにかく何が起こるかわからないから、坂本さんは逆に自由に動けるようにしていてほしい」

「わかった」

 少しだけホッとしてしまった。

 そうこうするうちに、浜西がハンバーガーセットを買って戻ってきた。

 ガッツリと朝食を食べる気満々の彼に、三浦くんが計画を説明する。

 ハンバーガーを頬張りながら「OK」と、親指を立ててみせる浜西。

 ちなみに意図的なのか、三浦くんとあたしがバスの中で咲日に密着することは話していない。

 どうやって咲日を助けるのか──とか、気にならないのだろうか?

 いや、そもそも、浜西のことだから小説なんて読んでいないかもしれない。

 事故が起こることも知らずに、この計画に協力しようとしている?

 だとするなら、どれだけお人好しなのだろう。

 下手をすれば不審者扱いだというのに。

 彼のそういうところ、嫌いではないのだけど──。

 もう一度きっぱりハッキリ言っておく。

 本当に本気で本心から、友達以外の感情なんてないから! 変な詮索はしないように!

 それはさておき──。

 あたしはふと気づいた。

「咲日? なんか楽しそうじゃない?」

 これから大事故に遭うかも知れない──という顔ではなかった。

「うん。だって楽しいじゃない? みんなで運命に立ち向かうなんて、なんだか小説の主人公みたいでワクワクするもの」

「なにを呑気なぁ……」

 思わず苦笑してしまった。

「運命はね、変えようと思えばいくらでも変えられるんだよ。変えようと思う気持ち次第なの」

「そうだな」

 三浦くんが咲日の考えに賛同した。

「まあ、言いたいことはわかるけど。そもそも、これから変えようとしているんだし……」

 ただ、心配なのは強制力だ。あたしがどんなに頑張ってもダメだった。

「もし一人で変えられなかったら、みんなで力を合わせればいいのよ。そうすれば変えられるかもしれない」

 あたしの心を読んだのではと思えるほど、咲日が付け足した言葉は、あたしの心配にぴったりあてはまった。

「うん、そうだね」

 不安が一気に吹き飛んだ。

 本当になんとかなるかもしれない気がした。

 いや、なんとかするんだ!

「さて、そろそろ時間だ」

 三浦くんが言った。

 あたしたちは一斉に頷く。

「それじゃ、ミッション・スタート!」

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