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美少女が死にたくない理由  作者: 藍木 青
13/15

裏切り

 夜11時を回ろうとしていた。

 咲日の性格からして、これ以上遅くに電話をかけてくることは考えにくい。

 明日は祝日で学校は休み。

 デートに誘う場面には間に合わなかったが、「明日、9時半」という約束はしっかり聞いているので、待ち合わせをしたことは間違いない。

 小説でも、明日の祝日を指定して約束しているし……。

 それなのになぜ、咲日は電話をかけてこないの?

 あたしの気持ちを知って、三浦くんとデートに罪悪感を感じてしまうはずなのに……。

 もしかして、昼間のアレでは、あたしの気持ちに気づかなかった?

 あるいは、あたしの気持ちを知りながら、隠そうと──。

 うんん、ありえない! 咲日に限ってそんな裏切りは絶対ない!

 そう自分に言い聞かせたが、胸の奥底でくすぶるどす黒い感情が、なかなか消えてはくれない。

 咲日と三浦くんが付き合うのは嫌じゃない。

 三浦くんのことは好きだけど、最初から高嶺の花だということはわかっていた。

 嫉妬しないというと嘘になるけど、咲日と付き合うのなら、納得して諦められる。

 絶対にお似合いだと思うし、だから小説でも最後はそうなるように、デートの約束もした。

 それなのに、ここにきて咲日を嫌いにはなりたくない。裏切ったなどと思いたくない。

 こんな気持ちで小説のクライマックスなんて書くことはできない。

 ハッピーエンドにしたいのに、このままじゃ……。

 だから思い切ってあたしから咲日に電話をかけた。

『もしもし、芽花?』

「……遅くに、ごめんね……」

『どうしたの? なんか、あった?』

「あのね咲日……」

『なぁに?』

「あたし、三浦くんのことが、好き……」

『そうなのぉ?!』

 咲日の驚きからして、本当に気づいていなかったらしい。

 どうやら昼間のアレは、あたしが想像する以上に小説からズレてしまっていたようだ。

 つまり、この恥ずかしい告白も、強制力ということなのだろうか……。

『まあ、そのぉ、なんというか──』

 いきなりの告白に戸惑いながらも咲日は言うと、

『うん、わかった、とにかくがんばって!』

「え?」

『え?』

「それだけ?」

『それだけ? って──ああ、えっと、なにか協力することはある? なんでも言ってもらえれば──』

 途端に目の前が真っ暗になった。

 あたしの気持ちを知ってなお、三浦くんとデートを隠すつもり?

 正直に話してくれると思っていたのに……。

 胸の中でどす黒い炎が一気に燃え上がった。

 あたしはそれ以上は言わず電話を切る。

 親友に裏切られ絶望感に突き動かされ、あたしはパソコンを立ち上げた。


 9時半にリョウと待ち合わせた咲日。

 バスに乗る。

 初めてのデート。幸せに絶頂の二人。

 しかし次の瞬間──。

 悲劇が二人を襲う。


 咲日の視点はそこで終わる。


 メイカの元にかかってくる1本の電話。

 それはテッペイから。

 メイカは知ることになる。

 二人の乗ったバスが事故に遭ったことを。

 リョウは奇跡的にかすり傷で済んだが──。

 咲日は静かに息を引き取った……。


 投稿ボタンを押した瞬間、あたしは我に返った。

 なんて恐ろしい小説を書いてしまったのだろう。

 しかもこれは単なる小説ではない。

 書いたことが現実になってしまうのだ。

 投稿を取り消すため、削除ボタンを押した。

 ところが──。

 いくら待っても、画面が変わらない。

 首をかしげたたあたしは、いったんブラウザーを再起動し、投稿ページにアクセスする。

 途端に嫌な汗が噴き出してきた。


 ただいま、サイトが大変混雑しております。少し時間を開けてアクセスしてください。

 ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。


 どういうこと?!

 さっきまで普通にアクセスできたのに、急に混み出すなんてあるの?

 得体の知れない恐怖に襲われる。

 投稿した小説は現実化する前なら修正は可能なはずだ。

 それができないような力が働いている?

 もしかして強制力?

 もう一度アクセスをすると、なんとか投稿ページにログインをすることはできた。

 削除を押してまた変な画面が出ると怖いので、編集のボタンを押し、バスに乗るところまでを残して後は消した。

 編集完了のボタンを押したあたしは、頭の中が真っ白になってしまった。


 編集は完了できませんでした。


 焦ったあたしは何度も何度も編集完了ボタンを押し、ようやく気づいた。

 編集が完了できない原因が、下の方に表示されていた。


 文字数が不正です。

 最低文字数に達しているがご確認の上、再度編集完了ボタンを押して下さい。


 いたずら防止のため、最低文字数が決められていることを思い出した。

 果たして何度目の編集ボタンだろうか?

 押した瞬間、また違う画面が現れた。


 不正な連続アクセスを感知しました。

 安全確保のため、一時的にアカウントを停止させていただきました。

 12時間後に停止は自動的に解除されます。


 何度もボタンを押したのがいけなかったのだろうか?

 12時間なんてとても待てない。現実化が実行されてしまう。

 いますぐ停止を解除してもらおうと、問い合わせのページに事情を書き込み、送信する。

 しかし、登録しているメールアドレスに届いたのは、問い合わせを受け付けたという内容の自動返信メールだった。

 そこには、ご丁寧にも営業時間が記載されていた。もちろん既に終了している。

 しかも、土日祝日は休業のため、返信が遅れるとのこと……。

 明日──いや、もう日付が変わって、今日は祝日だ。


 このままだと、咲日が死んじゃう……。


 不意に、小説を書くきっかけとなった夢を思い出した。

「死にたくない!」

 あの時、夢にでてきた咲日(その時はまだ名前を決めていなかった)はそう叫んでいた。

 もしかして、このことを言っていた?

 とにかく、なんとかしないと──。

 そうだ、三浦くんに事情を話して、明日のデートを延期してもらえばいいんだ!

 強制力があるのでどこまでできるかわからないけど、せめて次の休みまで延期してもらえれば、なんとかなるかもしれない。

 実行日になってしまうと修正はできないけど、停止が解除されたら話を付け足して、UFOの時のような夢オチにしてしまえばいい。

 初めてあたしから三浦くんに電話をかけた。

『坂本さん、めずらしいね』

 非常識な時間にもかかわらず、三浦くんの声に迷惑そうな響きは全く感じられず、逆に思わず泣いてしまいそうになるほどの優しさに溢れていた。

 小説の実現化も含め、事情を説明する。

 こんな突拍子もない話、信じてもらえないかと思ったが──。

 三浦くんは、真剣にあたしの説明に耳を傾けてくれた。

「それで、明日のデート、延期してもらいたいの」

『1つだけ、訂正させてもらっていい?』

「訂正?」

『デートなんてしないから』

「だって、お昼の時、9時半に咲日と待ち合わせしてたでしょ?」

『やっぱり聞いてたんだ』

 その言葉には、ため息が混ざっていた。

「ごめんなさい……。でも、隠したりとか、そういうことはして欲しくなかったというか──もちろん、あたしに知る権利なんて、ないんだけど、親友だと思ってたから──」

『そうじゃなくて──なんていうか、これ以上隠しておくのは無理かなぁ……』

 三浦くんはそう独りごちると、

『本当はサプライズだったんだけどね』

「え?」

『今度の日曜日、坂本さんの誕生日でしょう? だから、ナイショでプレゼントを買いに行こうって計画だったんだ』

「そっか、あたし、誕生日だ……」

『ちなみに哲平も行く予定だったから、デートとは言わないでしょう?』

「そ、そんなこと、わざわざ学校で話さなくたっていいっていうか……」

 嬉しいやら恥ずかしいやらで、少しだけ矛先を逸らす。

『いや、少し言いにくいけど、誕生日のこと今朝になってはじめて知ったんだ、友坂さんに聞いて。サプライズにしようって話したところで坂本さん来ちゃったから、いったん中断したんだけど──お昼に、哲平が気を利かせたから、計画の続きを話してたんだよ』

 確かに、それなら辻褄が合う。

 あたしってば、なに早とちりしていたんだろう。

 いや、「早とちり」っていうのかな、これ?

 小説が現実になるって思い込んでいたのがそもそもの原因なんだし……。

 そこではたと気がついた。

「もしかして、今までのことは全部ただの偶然で、バスの事故とかも起こらないのかな?」

『それに越したことは無いけど、偶然で済む範囲は超えている気がする。万が一ということもあるし、とにかくオレも小説を読んで、現実化がどの程度のものか、わかる範囲で確認してみるよ。

 とりあえず今日はもう休んで、明日9時──いや、8時にみんなで待ち合わせよう。哲平にはオレから連絡するから、友坂さんの方はお願いしていいかな?』

 咲日にも謝らないといけない。

 あたしは「うん」と答えて電話を切る。

 そして、もう一度──ただし、今度は全く違う気持ちで、あたしは咲日に電話をかけるのだった。

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