約束
今日は天気も良かった。
中庭にレジャーシートを敷いて、いつもの4人でお昼を食べていると、不意に浜西が立ち上がった。
「坂本、ジュース買いに行くべ」
「はい? あたし?」
思わず眉根を寄せてしまった。
珍しいこともあるものだ。
浜西が咲日ではなく、あたしに声をかけるとは。
次の瞬間、あたしは気づいた。
咲日と三浦くんを二人きりにしようという算段なのでは?
もしかして強制力? いや、三浦くんに頼まれたのかもしれない。
咲日をデートに誘うから、二人きりになるように協力してくれ──とか。
そうだとするなら浜西、あんたもホント人がいいわね……。
そういうところは嫌いではないのだけど──。
やっぱ、あり得ないわ、浜西だし……。
もちろん、二人きりになるのを邪魔するつもりはない。
「あ、うん、わかった」
浜西の誘いに乗ることにして立ち上がった。
「あ、咲日は? ついでに買ってくるよ?」
咲日も付いてくると言い出さないように先手を打つ。
「ああ、ありがと、じゃあ、お茶を」
「うん。三浦くんは?」
「ああ、オレも。ありがとう」
「いいのいいの、浜西のおごりだから」
「俺かよ! まあ、いいけど──」
「あ、いいんだ、ごちそうさまー」
などと冗談を言いながら、自動販売機へと向かう。
途中まで来たところで思い出した。
あたしはデートに誘うところを目撃しないといけなかったのだ。
「あ、ごめん、先に行ってて」
「え? なぜ?」
浜西が「マズい」という顔をする。
「あたし、教室に財布置いてきちゃったから、取りに行ってくる」
それは嘘だ。
しかし、二人の所に戻ると言えば、三浦くんに義理立てした浜西は、なんとか阻止しようとするかもしれない。
教室ということにしておけば油断するだろう。
「俺のおごりだろ?」
「ありがと。でも、まあ、さすがに悪いし」
「いいって別に、どうせ──」
言いかけて慌てて口をつぐむ浜西。
「『どうせ』なに?」
「いやぁ、あのぉ……」
あやしい。
「どうせ……そう、どうせ遼にあとで請求する──みたいな」
なるほど、そういう裏取引があったか。
飲み物で譲るなんて、どれだけ安いのよ、あんたの愛情は。
感心して損してしまった。
「そういうことならなおさら、自分の分は自分で出すわよ」
呆れながら言ったあたしは、
「だから、あたしの分まで三浦くんに請求しないでよね」
強めの口調で付け足すと、いったん教室の方に向かって走り出す。
廊下を曲がったところで身を潜め、浜西が追いかけてこないことを確認したところで中庭へと向かう。
木の陰から陰へと渡り歩き、会話が聞こえる位置まで近づく。
「じゃあ明日、9時半ということで」
「わかった」
なんとかそれだけは聞くことができた。
遠回りをしたのがいけなかった──。
本当は、三浦くんが誘って咲日が照れながら頷く──というこっぱずかしい場面まで目撃するはずだったのだが……。
それでショックを受けたあたしは逃げるようにその場を立ち去り、咲日にみつかってしまう。
まあ、いいか。
どうせ知っていることだし、これ以上は苦しい思いもしたくないし……。
あとは見つかるだけ──なのだが、肝心の咲日がこちらを見ようとはしない。
そうか、どうせ強制力が働くはずだから、どんなに上手に逃げ出しても、咲日はちゃんと気づくはず──ええっ?! うそぉっ!
浜西が戻ってきてしまった。
「あれ? 坂本は戻ってきない?」
「一緒だったんじゃないのかよ?」
「それがさ、財布忘れたって教室に行ったきりなかなか戻ってこなくてさ、捜しに行ったんだけどいなくてさ──」
マズい、なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「もしかしたらこっちかと思って」
とりあえず、お手洗いに行っていたことにして、何食わぬ顔で合流しよう。
──そう思った時だった。
ガサッ!
しまったぁ!
「あ、芽花──」
まさかここで強制力ぅ?!
スカートが引っかっていたらしく、立ち上がった瞬間に枝が揺れ、咲日に見つかってしまった。
「もしかして、聞いてた?」
「う、うんん、全然聞いてないよぉ」
あたしは慌てて頭を振る。
「…………」
うわぁ、あの目は疑ってるよ……。
「おまえなぁ、教室に行くって言ってただろ」
浜西の当然の愚痴。
「いや、そのぉ、途中で、こっちだったかなぁ、とか思って戻ってきたら、なんか良い雰囲気だったんで、出るに出られなかったというか……」
苦しい言い訳だ……。
「それより、飲み物はどうしたのよ!?」
浜西が手ぶらだということに気づき、無理やり話題を逸らした。
「いや、だっておまえが──」
「ほら、もう一度買いに行こう」
「お、お、おい──」
あたしは浜西の腕を掴み、逃げるようにその場を後にする。
これで小説に近い展開になったと考えていいのだろうか?
少し不安ではあったが、強制力を考えると、これでいいのだろう。




