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美少女が死にたくない理由  作者: 藍木 青
10/15

M(笑夢)

 UFOの場面は、夢オチかつ映画に行く伏線ということで、酷評だった人達にもなんとか納得していただいた。

 現実の映画はというと、咲日も三浦くんも大絶賛だったが、あたしは──正直、なんとも言えなかった。

 決して映画が面白くなかったわけではない。

 席が三浦くんの隣になってしまい、あまりの緊張に内容が全く頭に入ってこなかったのだ。

 チケットは三浦くんがまとめて購入し、みんなに配ったのだが──。

 近くにいた咲日に渡したところで、その隣を狙った浜西が、三浦くんの手に残った3枚から1枚を抜き取ったのだ。

 ところが、抜き取る場所を間違えたらしく、浜西は一番右端になり、その隣が三浦くん、あたし、そして咲日の順番になった。

 まったく、浜西のおかげで、チケット代を損しちゃったじゃない。

 ──などと強がらないと、顔が蕩けてしまいそうだった。

 それにしても、三浦くんは良かったのだろうか?

 残った2枚のうち、あたしに渡した方を自分が使えば、咲日の隣になれたというのに。

 それとも、咲日を意識するあまり、敢えてそうした?

 つまりそれは、あたしの隣なら平気というわけで──。

 いやいやいや!

 頭を振ってその考えを振り払う。

 だから、あたしなんかが、三浦くんに意識されるなど、おこがましいにも程があるのだ。

 そもそも、三浦くんは咲日と付き合う運命にあるわけで──。

 映画を一緒に行くことさえ奇跡なのだから。


 そんなこんなで、小説現実化の謎を解明すべく、あたしは小説を書き続けた。


 そこからわかったのは──。

 まず、投稿から実現までの時間について。

 曜日や日付、時間などの指定は、ある程度なら可能らしい。

 ただし、日付の場合、記念日とか誕生日など明確な意味を持たせる必要があるようだ。

 意味のない日付指定や、指定そのものをしていない場合は、投稿した次の日に実行される。

 なお、深夜0時を過ぎて日付が変わってしまっても、夜が明けた時に実行された。

 逆に朝起きてからの投稿は、その日ではなく次の日になるようだ。

 「おはよう」から「おやすみ」までの日常生活の1日を基準とし、実現は次の日という感覚だ。

 あたしはその「次の日」を「実現日」と呼ぶことにした。

 ちなみに、投稿した日はそのまま「投稿日」だ。

 修正は投稿日のうちなら可能。

 実現日になってからの修正は基本無効だが、修正したことで現実と小説に大きな矛盾が生じる場合は、強制力──お弁当実験の時のような、予期しないハプニングに見舞われることもあるので注意した方がいいようだ。

 連続での複数投稿も基本的には可能だが、時間的に実現不可能な場合などは、小説と現実との矛盾が生じない範囲で実現しないこともある。

 つまり「現実と小説の矛盾」が実現化にとって大きな鍵になっているらしい。

 もう少し色々なパターンを試せれば、法則を見つけることができるかもしれないが、恋愛小説だということを忘れてはいけない。

 UFOシーンのような思いをするのは、もう2度とゴメンだ。

 読んでくれている人にも申し訳がないし、あたし自身のプライドも許さない。

 ど素人のあたしが「プライド」というのもおこがましいのだが……。

 ──なので、咲日と三浦くんの恋愛に関係しない内容は試せていないというのが実状だ。

 次に実現される規模。

 これも正直、まだ実験途中だ。

 地震とか、そういう大災害を書いて本当になってしまっては怖いし、他の人にも迷惑がかかるので安易に実験ができない。

 少なくとも、商店街の福引きで「レジャー施設無料チケット4名様ご案内」を当てることくらいなら、簡単に実現できるようだ。

 なお、この時のチケットで、咲日と三浦くんの距離は、さぞかし縮まったことだろう。

 加えて、あたしと浜西の距離も、別の意味で縮まった。

 もちろん恋愛ではない。友情という形でだ。

 普通に会話をして、冗談も言い合えるくらいにはなった。

 単に人見知りのあたしが慣れて話せるようになっただけ──と言ってしまえばそれまでなのだが……。

 さて、ここで原点に戻って考えてみる。

 この実現化は、あたしの力なのだろうか?

 もしかすると、別の力が働いて、アタシの小説を実現しているのでは?

 最初に目を付けたのが、投稿しているサイトだった。

 別の小説を投稿してみたが、そちらは実現はなかった。

 咲日が主人公の、この小説限定のようだ。

 では、この小説を別のサイトに投稿したらどうなるか?

 しかし、サイトの規約で重複投稿はできないことになっていた。

 あちこちに同じ小説を投稿して、読む人を混乱させてしまうのも申し訳ないし……。

 そこでふと思う、読んでくれている人の中に超能力者がいて、実現させているのでは?

 一体なぜ? 何の目的で?

 それはそれでまた謎が増えてしまう。


 そんなある日──。


 現実化のことなど考えている場合ではないほどの大事件が起きた。

 それは、あたしの元に届いた一通の電子メールによってもたらされた。

 小説を投稿しているサイトを経由された、そのメールの内容は──。

 某テレビ局が、あたしを取材したい──といった主旨のものだった。

 どうやら、あたしの小説が世間で話題になっているらしく、ニュース番組で紹介したいというのだ。

 思わず叫びたくなるほどの喜びと同時に襲ってきたのは、あたしが書いていることをクラスメイトに知られる恐怖だった。

 特に、玲奈──。

 カタカナにしているとはいえ、「レイナ帝国」とか、決して嘘は書いていないものの、バレるとマズい内容が多々含まれている。

 それにテレビに出るのは、さすがに恥ずかしいということもあり、あたしは丁重にお断りさせていただいた。

 すると、ペンネームと年齢、性別だけは公開させて欲しいとのことで──。

 どうせサイトを見ればわかる情報なので、それに関しては快く了承した。


 そして、そのニュース番組が放送されるや否や──。

 「謎の天才女子高生作家」として、小説を読まない人にまで、あたしのペンネーム「笑夢」は知られることとなった。

 こんな取り柄のないあたしが「天才作家」など、何かの冗談としか思えなかった。

 もしかすると本当は夢オチなのではないかと、何度頬をつねったことか。

 しかし、それは紛れもない事実だった。


 やがて、謎の天才女子高生作家・笑夢は、各テレビ局で取り上げられるようになった。

 それに伴い出演依頼も増えていったが、校則で禁止されているという理由で全てお断りした。

 アルバイトは禁止なので嘘は言っていない。

 世間というのはよほど「謎」ということが好きなのか、断れば断るほど騒ぎ立ててくる。

 憶測が憶測を呼び、笑夢の名前はどんどん一人歩きしていった。

 ある人気バラエティでは、偉い心理学者に小説の分析を依頼し、作者である笑夢の人物像を予測するという企画をやっていたのだが、あまりにもあたしからかけ離れていて、思わず笑ってしまった。

 どちらかというと咲日の方が、その人物像に近かったのだ。

 確かに、小説は咲日になりきり、咲日の目線で書いている。

 あたしの「なりきり」は、心理学者でさ欺いてしまったのか、それとも番組の依頼した相手が単に名前ばかりの人だったのか──。

 もしかすると視聴者のイメージを崩さないように配慮したのかもしれない。

 そういえば、「あくまで個人の見解です」と画面の端に注意書きが出ていたし、司会者も同じコトを繰り返し言っていた。

 もちろん、それだけ有名になれば、クラスでも話題になる。

 しかも、このクラスで実際に起こったことや、起こることを書いているのだから、気づかれないほうがおかしい。

 その事件が起きるのも、時間の問題だったといえよう。


 朝、いつものように登校し、ホームルームが始まるまでの時間、咲日と雑談をしていた時のことだった。

「ねえねえ、女子高生作家の笑夢って、友坂さんでしょう?」

 咲日と比較的よく話をしている「咲日派」の1人が、軽い口調で声をかけてきた。

「小説の主人公って、苗字も名前も友坂さんだし」

「私じゃ──」

 咲日が否定の言葉を口にしかけたが、

「確かに、咲日の『(えみ)』の字って、もともと『笑う』って意味だったみたいだしね」

 別の所から上がった声に遮られた。

「テレビでさ、作者の人物像ってやってたんだけど、なんか友坂さんに似てたんだよねぇ」

 どうやら例のバラエティ番組を観たらしい。

「ああ、あの番組でしょ? アタシもそう思った」

「あの小説って、このクラスのことを書いたんでしょう?」

 早とちりさんが、咲日に問いかけてきた。

 何を言っても無駄だと思ったのか、咲日は小さく息を吐いて軽く肩をすくめた。

「『なんとか帝国の下っ端』とか傑作だよね、よく特徴とらえてるわ」

 それが引き金となった。

「誰が下っ端だって?」

「あんたたちのことだなんて、ひとことも言ってないんですけどぉ」

「こっち見て言ったじゃん!」

 玲奈帝国の下っ端と咲日派がついに衝突──かと思いきや、

「いい加減にしなさい」

 それを止めたのは、意外にも玲奈だった。

「でも、飯塚さん──」

 下っ端を一瞥して黙らせた玲奈は、おもむろに席を立つと、あたしの前を通り過ぎ、咲日の前に立った。

「友坂さん、あなたが笑夢なの?」

 口調こそ物静かではあったが、それが却ってなんとも言えない緊張感を醸し出していた。

 いつ手が出てもおかしくない雰囲気に、教室にいる誰もが、固唾を呑んで見守っている。

 どうしよう? 正直に言って謝った方がいいのだろうか?

 そうしないと咲日が……。

 しかし体が震えてしまい、声を出すことができない。

 臆病な自分が情けなくなる。

「残念だけど、私じゃないのよねぇ」

 咲日がいつもと変わらない笑顔で答えた。

「でも、あなたが主人公よね?」

「その理屈だと、猫が主人公の小説は猫が作者ということになるんじゃない?

 そもそも私にそんな文才があったら、もっと自慢しているもの」

 最後の方は冗談ぽく付け足す。

「そう」

 玲奈はすんなりそれ受け入れると、自分の席へと戻っていった。

 教室のあちこちから、ため息が聞こえてくるようだった。

 なんとも気まずい空気だけが残り、それ以上笑夢の話題を口にする者はいなかった。

 それにしても、咲日は本当にすごい。

 あの状況でも全く動じた様子がなかった。

 美人で頭が良くて運動神経も抜群、性格も良くて、しかも度胸まである。

 やはり三浦くんとつり合うのは、咲日しかいない。

 よし、決めた。

 小説もいよいよ大詰めだ。

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