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裏ルート。
「SweetMagic」ははっきり言って地味なゲームだった。
そんなゲームが売れた理由一つ。
それぞれの攻略キャラごとに裏ルートが存在する。
私は友達に勧められた時そんなことは知らなかったけれど、すっかりハマった私はネットでその情報を見つけた。
キャラごとに裏の性格や背景があり、それが”地味”なんてのとは無縁らしいということを。
是澤のが気になった私は、スマホ片手に攻略を見ながら進めてみた。
そして挫折した。暗い。とにかく暗い。
そこで折れた私は裏ルートはやらないことにした。
そして今思い出す。推しが金剛だった友達の話によると、金剛の裏はヤンデレ。そんな裏が存在するからこそ、目だけ笑ってないなんてことができるのだろう。
そこまで思い出して鐘が鳴る。
金剛が席に戻ると、峰川がまたしつこく話し掛ける。その様子をぼんやり見ながら、私は悩んでいた。
これはそろそろ本格的に対策を練らなくてはいけないかもしれない。
今のこの感じだと、イベントは必須。親密度の別れ方によっては裏ルートの可能性だってある。裏ルートをプレイしていない私にとって、裏ルートは一番危険だ。気付かないうちにルートに入っていたら取り返しがつかない。
これは家に帰ったら前世の記憶をまとめないとな、と思ったのだった。
その日は何かと金剛に話しかけられるせいで是澤の所へは行けなかったけど、あれもイベントだから必ず起こるだろう。それよりも今は家に帰りたい。
「桜宮さん!」
ソプラノの涼やかな声。帰りのHRが終わって教室を出た私に届いたのは、そんな声だった。
振り返るとそこには峰川菜々子。
「その、あんまり大きい声で言えないんだけど……」
歯切れが悪い。そして既視感。
「さ、桜宮さんは、金剛君が好き……なの?」
爆弾発言。
これはイベントだ。悪役である峰川との嬉しくないイベント。
でもこのイベントは金剛との親密度が高くないと発生することは無い。金剛と私を見て嫉妬した峰川が、私の意思を確認するため、その答えによっては峰川が敵になるかならないかのイベントなんだ。そして私に聞いてくるということは、私が金剛に気があるように見える必要がある。
だけど、今の私が金剛のことを好いているようになんて見えないはず。実際好きでも何でもない。
だったら答えは一つ、否定だけだ。
「好きじゃないよ、別に」
峰川が私を見つめる。心の中を見られるようでいい気分ではない。
少しの間見つめるとやっと納得したのか、峰川はほっとした顔をする。
「そっかぁ〜。良かったぁ〜!……ごめんね、急に。ありがとう!」
笑顔で走って行く峰川。
そして私はまた一つ思い出す。裏ルートの発生条件はー……。
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