表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/46

42

 そして放課後。

 

 「僕も野球部に協力することにした。二年の是澤だ。これからよろしく」

 

 是澤は、ホームルームが終わってすぐに部室の鍵を開けに来た尾崎君よりも早く来ており、部室の扉の前で仁王立ちしていたという。知らない人が立っていたことで最初は警戒した尾崎君は、どこかで見たことがある気がしたのでとりあえず中に案内したらしい。その後に悟と一緒に部室に来た私は、机を挟んで無言で見つめ合っている二人を見て何事かと思ってしまった。少し遅れて来た峰川は是澤の顔を見てテンションを上げ、逆に誠はテンションを下げた。

 

 「本当に来るとは思わなかった……」

 

 「僕の力が少しでも必要だと思ってくれたのだろう?ならば協力することはやぶさかではない」

 

 「誘ったオレとしては、嬉しい限りだよ」

 

 悟が本当に喜んでいるのかは怪しいが、是澤の気持ちが心からだということは伝わったのか、皆入部を反対することはなかった。あとはまだ来ていない琳音が承諾すれば、是澤も臨時の野球部員になる。

 

 「こういう時に限ってあの人はいないのね……」

 

 「さっき廊下で見かけたけど、女の人達に囲まれてたよ」

 

 「赤原先輩、本当に格好良いもんね!囲まれちゃうのも分かる!」

 

 「赤原先輩、とは誰のことだ?」

 

 「もう一人の協力者です。いつもはもう少し早く来ているんですが、今日は駄目みたいですね」

 

 なんとなく琳音の話になり、そのまま会話が続いていく。峰川は琳音のルックスにだんだん声のボリュームが上がるが、逆に誠の機嫌は急降下している。峰川と誠は、毎回真逆の反応をするから面白い。尾崎君は苦笑しながらも会話に混ざる。是澤は聞いた内容からどんな人物なのか想像しているのか、しきりに首を傾げていた。この学校で琳音のことを知らない生徒がいたことに驚かされたけど。悟は我関せずと尾崎君の入れたお茶を静かに飲んでいるだけだった。

 

 「ごめーん、遅れた〜」

 

 そこで部室の扉が開く。一瞬にして部室の中が静まり返った。

 

 「あれ?オレなんかまずいタイミングで来た?」

 

 「そんなことはないですよ。ただ赤原先輩の話をしていたので、本人が来たことで少し気まずくなっただけです」

 

 「なになに!オレの話!?すっごく気になる!」

 

 全員が動きを止めてしまった中で即座に動いた尾崎君も凄いが、自分の話をされていたと知ってその輪の中に入ろうとする琳音も凄い。自分の見た目から、悪口ではないと確信しているのだろうか。

 

 「なんだか先輩、今日テンション高いですね〜」

 

 誠がまだ戻らない機嫌のまま、大して興味無さそうに言った。そう言われてみれば、確かにテンションが高いかもしれない。

 

 「良いことでもあったんですか?」

 

 「……花ちゃん、気になる?」

 

 グッと近づいた距離に慌てる。私の座っているソファの背もたれに両手をつき、上体を後ろに向けていた私を後ろから囲い込むような形で顔を近づけてくる。顔が本当に近い。普段から距離が近い人だけど、時々危険を感じる距離まで近づいてくるのがこの先輩だ。

 

 「……ん?」

 

 どう反応したらいいのか迷っていると、ふいに琳音の視線が私から逸れた。そしてそのまま私からも離れる。ホッとして深く息を吐き出すと、今度は隣に座っている悟が距離を縮めてきて私はまた慌てることになった。

 

 「そういえば彼、誰?」

 

 「僕か?」

 

 「そうそう、眼鏡のキミ」

 

 「僕は二年の是澤大和だ。今日から野球部に協力することになった」

 

 「そうなの?」

 

 「はい。赤原先輩が是澤先輩の入部に対して特に反対する理由がなければ、ですが」

 

 「そうなんだ。協力者が増えてくれることは嬉しいことだし、特に反対する気もないよ。これからよろしく、是澤」

 

 「あぁ」

 

 私が悟との距離を開けようと努力している間に、是澤の入部が決定していた。

 

 「それで、赤原先輩のテンションが高い理由は〜?」

 

 今日は誠の機嫌がとことん悪いな。言い方が凄く雑になっている。尾崎君も気になるのか、誠のことをチラチラと見ていた。

 そんな私達の様子なんて視界に入っていないのか、誠は琳音のことだけを見ている。

 

 「そんなに急かさないで、ちゃんと話すから。えーっと、実は、元部員の人が一人戻ってきてくれることになりました!」

 

 琳音の言ったことに再び部室内が静まり返った。そしてその数秒後、全員の表情が笑顔になる。

 

 「本当ですか!?」

 

 「本当です」

 

 「どうやって!?」

 

 「ちょーっと女の子達に協力してもらってね。それ以外は言えません」

 

 「言えないことをしたと……」

 

 「いやっ、怪しいことはしてないからね!?」

 

 「ふむ、僕も頑張らないとな」

 

 私を含め、琳音を質問攻めにしたりこれから何をするべきか考えたりしているけれど、その表情は皆笑顔だ。やっと少し廃部から遠ざかった気がする。

 そんな中、誠だけは浮かない顔をしていた。笑顔は笑顔なんだけれど、どこか影があるような、何かに悩んでいる様子が見て取れた。誠、何かあったの──?

今回は少し長くなりました。読みやすいように、読みやすいようにと考えながら書いていたら、何故か字数が増えました。何故でしょう。


また次回、お早めにお届けできるよう頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ