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どんなに離れようと腕に力を込めても悟の腕は腰から離れない。文句を言おうと悟の顔を見上げても、是澤のことしか見ていない。
「なんのつもりだ?」
是澤は悟の行動が不思議なのか、少し首を傾げながら悟に聞いている。その様子にキリッとしたイケメン顔が可愛く見えて、少しドキッとした。普段表情があまり変わらない分、変わった時の周囲への影響は凄い。一見キツそうな性格に見える是澤をいつもは避ける生徒も、こういう時は立ち止まって是澤に見惚れる。
「……なんとも思わないの?」
「?」
是澤は悟の言っていることがまったく理解できないらしい。頑張って理解しようとしている姿も可愛いと思えてしまう。
「はぁ……」
「僕は呆れられるようなことをしたか?」
明らかに呆れを含んだ溜め息に、是澤は少しムッとしたのか悟を睨む。
「効果なし、か……。ごめんね、花愛」
「う、うん」
やっと離してもらえた。私は急いで悟との距離をとる。
悟は是澤に視線を戻すと、いつもの優しい声色に戻して話しかける。
「もう一度聞くけど、お前部活入ってる?」
「入っていない」
「そう。じゃあ野球部入ってくれる?」
「野球部?」
やっぱり是澤を野球部に入れる気だ……!でも、はっきり言って是澤に運動部は似合わない。
「花愛も入っているのか?」
是澤からしたら、私が野球部に入っていることの方が信じられないらしい。疑う目を向けられる。
「う、うんっ。色々あって、協力するために入ってる」
「そうか……」
顎に手を当てて考え始める是澤。そろそろ休み時間が終わってしまいそうなので、できるだけ早く入部への意思を決めてほしい。
「もし入部するなら、今日の放課後野球部の部室に来て」
「早くないか……?もう少し考える時間が欲しいんだが……」
「オレにも色々あるんだよ」
それだけ言うと悟は教室に入ってしまった。取り残された私達は、お互い何を言ったらいいのか分からず黙り込む。
「僕が野球部に入れば、花愛の力になれるか?」
急に言われた言葉に、私は首を傾げる。
「当たり前だよ」
考えるよりも先に口にしていた。
「……」
是澤が真っ直ぐに私と目を合わせる。そん視線があまりにも真っ直ぐで、自然と心拍数が上がった。私は何か変なことを言ってしまっただろうか。
「えーっと……」
「もう時間だな。何も話せなかったのは残念だが、また次に」
私が何か言う前に目を逸らされてしまった。
最後に少し笑顔を向け、是澤は教室に戻って行った。
放課後、是澤は野球部の部室に来てくれるだろうか。
少し更新遅れてしまいました(^_^;)




